「起きてくださーい、土方さん、さーん?」
「んぁ…」
総司の声に、土方は目を覚ました。
朝。
雀のさえずりもとっくに終わり、外からは子供達が遊ぶ楽しげな声が聞こえていた。
総司が開け放した障子の、その向こうの空は快晴。
眩しいばかりの朝の日差しが降り注いでいる。
「…何刻だ…」
「いつもと同じですよー。
もう、土方さんてばいつまで経っても寝坊魔なんだから」
「…毎朝毎朝うるせぇガキ共だ─────――――――…
ッ、そうだ、は…!」
土方は自分の言った言葉にある事を思い出し、焦ったように布団に横たえていた体を起こそうとした。
しかし、それは右腕にかかる軽い重力によって出来ずに、体の左半分だけを起こすような体勢で動きを止める。
「…残念ながら、小さいままです」
「チッ…」
彼の右腕に小さな頭を載せて穏やかに眠るは、昨夜寝ついた時と同様に子供のままだった。
彼女は昨日の朝、起きたら子供の状態になっていたので…土方は「もしかしたら」と淡い期待を持っていた。
しかしの姿は、一晩たった今も未だ子供のまま。
土方の期待は、すぐに打ち砕かれる。
総司の言葉と、何よりも自分の目に映る現実に土方は小さく舌打ちをしたのだった。
「起きろ、おい」
「うにゅ…?」
「朝ですよー、さん」
現実を嘆いていても仕方がないので、土方はの華奢な体を揺すって彼女を起こし始める。
言い方はぶっきらぼうだが、その体を揺する手つきは優しかった。
そんな土方を見て総司は思わず笑みをこぼしながらも、
まだ眠たそうなを起こすのを手伝おうと優しく声をかける。
「まだ眠いよ、としぃ…」
「そうか、じゃあずっと一人で寝てろ」
「っ…やだぁ!!」
目を擦りながら布団に入っていただったが、土方のその言葉にがばりと勢い良く起き上がった。
土方は着崩れてずり下がったの寝間着の衿を黙って直してやる。
「なら起きるんだな」
「としのいじわるぅ…」
「何とでも言え。ほら、総司におはようは?」
「おはよぉ、そーじ!」
「はい、おはようございますさん」
土方に促されて総司に朝の挨拶をするに、総司はよくできましたと言わんばかりの笑顔でそれを返す。
(ふふっ、土方さんてばすっかり保護者になっちゃって…)
と、ちらりと土方を横目で見ながらこみ上げてくる笑いを抑えたのだった。
「おはよ、とし」
「…おう」
笑顔のに、土方は照れているのか目線を外して応えた。
「…総司、の着替えは?」
「はい、これです。歩サンから預かってきましたよ」
土方の問いに、総司は自分の隣に置いてあった桃色の着物を前に出した。
子供用の着物なんて、この屯所の一体どこにあったんだ…
そう思いながらも土方は総司からそれを受け取り、の前にぽんと置いた。
「悪ぃな。ほら、着替えろ。そんな格好じゃ飯食えに行けねぇぞ」
「ええー?」
「ええーじゃねぇ。さっさと着替えろ」
「だってぇ…」
「あァ?」
土方がそう言うも、はもじもじとした様子でなかなか目の前に置かれた着物に手を出さない。
それから少しして、はようやく口を開く。
「、まだひとりでおきがえできないもん」
(…なッ…何ィーッ!!?)
(予想はしてましたが…やっぱり土方さん、面白い反応するなァ…)
衝撃を受ける土方をよそに、総司はその隣でぷぷ、と笑いを堪える。
一人で着替えられない、という事は…それは誰かに着替えさせてもらわなければならない、
という事を意味する。
その誰か、と言うのは今までの流れからすると確実に、土方の役目だ。
「じゃあ、土方さん…」
「っ、待て、何で俺なんだよ!」
「だって土方さんしかいないじゃないですかー。ねー、さん♪」
「ねぇー♪」
何やってンだ総司、と言いながら頭を抱える土方。
「歩くんがいるだろうが」
と、屯所内唯一の女性の名を挙げてみる。
そう言えば昨日は歩の部屋で着替えたのだから、今日も彼女にしてもらえばいいだろうと
土方は考えた。
「歩サンなら今、食事の用意やら後片付けやらの真っ最中ですから駄目ですよ」
「…。」
しかしあっさり却下される。
「じゃあお前が着せてやれよ、総司」
「えー、僕は女性の着付けなんて出来ませんよ」
「…チッ…」
「!なぁに、とし」
総司の返答に舌打ちをしてを呼ぶと、土方はの寝間着の紐を解いた。
小さな白い寝間着が脱がされ、あまり日光に晒されていない色白の肌が露わになる。
それからすぐに土方はに襦袢を着せて紐で崩れないように留め、
今度はその上に手際良く桃色の着物を着せた。
着崩れないようにまた紐で留め、伊達締めを巻く。
そして今度は帯を手に取り、器用に巻いて形を作った。
仕上げに帯紐を留めると、出来上がり。
男性が着付けたとは思えないくらいの見事な出来に、総司はただただ驚いた。
「スゴイですね〜、さすが呉服屋に奉公してただけの事はある…」
「五月蝿ぇ」
「あ、それともよく女性の着物を脱がすから、着せるのもお手の物になったんですか?」
「黙れ」
総司の言葉にピシ、と額に青筋を浮かべる土方。
しかし総司はそれにも怯まずニコニコと笑っている。
「…ホラ、。出来たぞ」
「うわぁ〜、としすごぉい!!」
最後に帯の形をもう一度整えると、土方はポン、との帯を叩いてそう言った。
見事に着付けられた自分の着物を見て、は目を輝かせて土方を見上げた。
土方はそんなの頭を軽く撫でると、自分の着替えもさっさと済ませてしまう。
「としは、なんでもできちゃうんだねぇ!」
「な…いや、そんな事ぁねぇよ…」
子供特有の、純粋な尊敬の眼差しと言葉に土方は照れる。
大人のように裏のない言葉だからこそ、返す言葉に困ってしまうのだ。
「ううん、としはすごいよぉ!」
「…そ、そうか?」
「、としのことだぁいすき!!」
だぁいすき…
だぁいすき…
だぁいすき…
の言葉が、土方の頭の中で何度も木霊する。
何でもない、確かに土方にとっては聞き慣れた言葉ではあるが…
満面の笑みでにこうもきっぱりと言われると、寝起きの土方には大打撃である。
「おーい、土方さーん?」と総司が声を掛けるが、しばらく固まったまま。
しばらくしてようやく、我を取り戻したのだった。
「としぃ、はやくごはんたべにいこぉ!」
「お…おう…」
「そーじは?そーじはいかないのぉ?」
「私はもう、済ませてしまいましたから…土方さんと二人でどうぞ」
「そっかぁ…じゃあ、あとでいっしょにあそんでね!」
「はい、勿論vそれじゃあ、失礼しますね」
そう言うと手を振りながら、総司は縁側の方に出て行った。
少し離れた所でサイゾーの鳴き声と、総司の「はいはい、サイゾーにも今ご飯あげますからね」という声が聞こえた。
それから土方はようやく立ち上がり、食事をするためにと共に部屋を出た。
は土方の手を取って、長い廊下を歩く。
土方に着物を着せてもらってよっぽど機嫌がいいのか、童謡を歌っている。
手を引かれながら歩く土方の視線の先では、の柔らかそうな黒髪がふわふわと揺れていた。
「ね、としぃ」
「ん?」
「きょうもいっぱい、あそぼうね!」
土方との一日は、始まったばかり。
to be continued...
ものっそい久し振りのありえな続編です。
最早その存在自体が有り得ない…。
ダラダラし過ぎてこのまま続けていいものかと思っていますOTL
今回は…た、ただ土方さんにさんの着せ替えをやって欲しくって…!(爆)
何度も言いますがちっちゃい子と戯れているシチュに萌え…!
口では文句言いながらもちゃんと面倒見てる辺りがウチの土方さんの、さんへの愛です(笑)。
05.10.09 Mia