やさしい手



「うう、おなか痛〜い…」
「大丈夫か。…大丈夫じゃなさそうだな」

平日の昼間だというのに、私は血盟城にある自分の寝室にいた。
眼下には妻の姿。彼女は今、ベッドに伏せり、必死に痛みと戦っていた。

「私もう死ぬかも…短い人生だったなぁ。ああ、でもグウェンみたいな人と結婚できて幸せだったよ」
「…」
「あ、眞魔国って火葬するの?それとも土葬?たとえ死んでからでも虫にたかられるのは嫌だから火葬がいいなぁ」

まだ私の人生の三分の一も生きていないくせに、は人生を振り返り悟ったような口振りでそんな戯言を口にする。
溜息をつきながら私は手近にあった椅子を引き寄せると、が横たわるベッドの隣に腰を下ろした。

「…そんな事を考える余裕があるなら大丈夫だな」
「うう、酷い!全然大丈夫じゃないのに!女はね、毎月一回一週間、この辛さと人生の半分くらい付き合わなきゃいけないのよ!
あーもう、これだから男って…あ、痛…死ぬ…」

見てなさい、終わったらアニシナさんに言いつけてやるんだから…と恐ろしいことを口走りながら、はまた腹を押さえる。
どうやらまた痛みの波が襲ってきたらしい。
広いベッドの上で小さい体を子猫のように丸めて、はシーツを握りしめる。
血の気の引いたその顔と脂汗が、どんなに悪態をつこうとも彼女が今かなり具合が悪いと言うことをを物語っている。
いっそ眠ってしまえば楽なのだろうが、曰わく、痛みと吐き気が休むことなく体を襲い、意識を失うことさえ許されないのだそうだ。

「少し静かにしていろ。…体をこちらに向けられるか」
「無理ぃ…あーもう呪ってやる…何を呪えばいいのかわからないけど呪ってやるぅー…
なんで毎回こんな目に遭わなきゃいけないの、私が何したって言うのよ…」

思いつく限りの呪いの言葉を並べるの腹部になるべく負担をかけないようにしながら、ゆっくり仰向けにすると、
彼女は少し眉を寄せ小さく呻いた。

「な、に…グウェン」
「いいから黙っていろ」

訝しがるの腹部に手を当て、神経を集中させる。
ギーゼラ程ではないが少しは使える自分の癒やしの力を、彼女に注ぐのだ。
まあ病でもなければ怪我でもないのだが、少しは和らぐだろう。

「…不思議、温かくなってきた…ちょっと楽かも…」
「そうか」

左手をの腹部に当てたまま、空いていた右手で彼女の手を握ると、思いがけず握り返された。
熱を持って少し汗ばんだその手は、小さくて子供のようだ。
少し驚いて彼女を見ると、彼女は小さく微笑んで私を見た。

「ありがと、グウェン…グウェンの手は、魔法の手だね。大きくて、あったかくて、優しい手。私、大好きだよ」

何の気なしに言ったのだろうが、自分の手が好きだというその言葉に、私の中に何とも言えない感情が広がった。
この、手が。
改めて自分の手を見てみると、小さな傷跡がいくつもあり、骨が浮き出て剣ダコやペンダコまである。
それに眞魔国のための戦いとは言え、人を、幾度となく手にかけたことさえあるこの手。
それなのに彼女は、それを好きだと言った。

…私は」

その次の言葉を口にしようとした瞬間、繋いだ手を、強く握られた。それは、これ以上言うなとの合図だろうか。
そう思いながらを見ると、彼女は目を閉じていた。…そうだ、きっと私の思い過ごしだ。

「お陰で眠れそうよ、ありがとう。…グウェンダル」
「…何だ」
「もう少し、このままでいてね。私が、眠るまで」
「…ああ」

彼女の痛みを和らげるため、そしてという光に照らされて、自分の闇を消すために。
完全に消え去ることなど有り得ないが、せめて今だけは。
これではどちらが癒されているのかわからんな、と思いながら、ベッドの上で目を閉じるに口付けた。

「愛している、
「うん、私も…」

乱れた心を落ち着かせるように、の手にも口付け、もう一度神経を集中させた。
幾分か血の気の戻ったその顔は、安らかな表情を宿していた。



fin.

全世界の痛みと闘う乙女に捧げます。なんつって(笑)
初めてのグウェン視点でした。あ、別人だ…!汗
短くてスイマセン。本当は拍手用にしようと思って書いてたんですが生理話って好き嫌いあるかなーと思って。
ゲームをやって、ますますグウェン萌え度数アップです。
でもめんどくさくて二周目に突入できてない…orz

2006.08.04*Mia Fujiwara