「今日で五日目…」
私と旦那と毒女
「うわぁぁぁあああー!!」
と、魔王陛下が情けない声をあげて消えていったのは五日前。
あれから五日も経ったけど、陛下がお戻りになられる気配は皆無。
ギュンターは「へーかぁあ!!」と発狂した日々を、それ以外はまぁ普通な日々を過ごしておりました。
「なんでゆーちゃんてば私も連れてってくれなかったのさぁあ!!」
一人だけ帰りやがって!!
地獄に堕ちるわよォオ!!
「…もう少し静かに出来ないのか」
「あ、すいません」
こちら眞魔国に来て二日でうっかり挙式しちゃった旦那様。
オタクに対する理解はきっと得られないであろう彼は、
心なしか眉間の皺を増やしながら窓に背を向けた執務室の机に座り、書類整理の手を止めて私の叫びを遮った。
「何故お前はここにいる」
「え…いや、暇だし…」
「他の者と遊んでいれば良かろう」
「魔王のお城探索ツアーは昨日で終わっちゃったからもう行く場所もないし、
ヴォルフは創作活動中でコンラートはお仕事中。ギュンターはなんか壊れてるから今近づくのは危険」
「…。(私も仕事中なんだが…)
グレタは?」
「アニシナさんてお客さんが来たらしくて、そこに」
「ッ!?」
「私も行けば良かったかなー」
「いッいや、行かんで良い、むしろ行くな!!」
「…?変なグウェンダル」
なんでアニシナさんて人の所に行っちゃいけないんだろ。
それにしても今の反応は一体…
さてはアニシナさんて人との間に昔何か!?
グウェンがこんなに狼狽えるなんて滅多にないし、私に会わせたくなさげだし…
ああっ、もしかしてもしかしなくてもこれはもしや…!!
「昔のコレ?」
コレ、と言いながら立てたのは小指。
それを見てずしゃっと顔を書類の山に突っ込んだのはグウェン。
あー、折角片付けた書類がぐちゃぐちゃ。
「何を馬鹿な事を…!」
「別に良いじゃん昔の彼女くらいー!私気にしないってばv
特にグウェンなんて人生長そうだし昔の女の一人や二人いたっておかしくないし」
「違う!!」
「隠さなくても良いってばー!んじゃちょっと迎賓館まで行ってきま…」
「グウェンダル!!」
「「…」」
私がくるっと方向転換して、扉を開けようとした瞬間。
開けるはずだった扉が、威勢の良い声と共にバーンと勢いよく開いた。
そして開いた扉の向こうに立っていたのは…
「ア、アニシナ…」
「ええ!?」
「お久し振りですグウェンダル」
燃えるような赤毛と、水色のその涼しげな色とは対照的に情熱的に輝く瞳。
まさに今私が訪ねようとしていた人物、アニシナさんその人だった。
まさか向こうから来るとは…!
「な、何故お前がここに…」
「聞きましたよグウェンダル、あなた結婚したそうじゃないですか」
「あ、ああ…」
「全くこの私に何の断りもなく…以前から十二分にわかっていたつもりでしたが軽薄な男。
それにしてもよくあなたのようなでくの坊が結婚などできましたね。
あなたが結婚など天地がひっくり返っても骨飛族に皮膚が再生しても不可能かと思っていましたわ」
「ア、アニシナ…」
「あら」
その小柄な体のどこから肺活力が出てくるのか、魔王並みのマシンガントークをぶちかますアニシナさん。
グウェンダルが遠慮がちに声をかけて、ようやく気が付いたようにこっちを見た。
「双黒…するとこの方が」
「初めまして、…じゃなくて、フォンヴォルテール卿夫人です」
この間仕込まれたばかりのフォンヴォルテール卿夫人としての自己紹介をグウェンダルの元カノ(?)にする。
さて、どう出るか…。
昼ドラだったら元彼女(もしくは愛人)が「あーらこの人が…この豚!!」とか言って挑発してくるのが定石ですが。
いやよ、牡●と薔薇ばりの愛憎劇なんて私はごめんよー!!
「可哀想に…!!」
「…え゛?」
何だか修羅場でも始まるのかと思いきや、アニシナさんにいきなりしっかと手を掴まれた。
「アニシナ、何を…!」
「このようなただ体が大きいだけで頭の堅い精々もにたあとしてくらいしか使い道のない男と結婚だなんて、
人生を棒に振ったも同然…大方策略か陰謀でしょう。
ああ嘆かわしい!可哀想な様!
何でしたらわたくしがこのでくの坊との離縁のお手伝いをしましょうか?
ええ、そうした方が貴女の為になるに決まっています!」
私とグウェンダルが呆気にとられている間も、アニシナさんのマシンガントークは続く。
この小柄な体のどこにそんな肺活量があるのだろうか。(二回目)
思わず後ろからコードかなんかで空気を送ってるんじゃないかと疑ってしまった。
潜水競技とかやったら強いのかもしれない。
「ま、待て、アニシナ!どこをどう繋げたらそのような話になるのだ。勝手に話を進めるな」
「わたくしは無能な男と不本意な婚姻をさせられた女性に解放への道を指し示しているところなのです。
無能な男の分際で口を挟むのはお止めなさい」
細い片方だけ眉をつり上げ、さも話の途中に割って入るなと言いたげな表情で
グウェンダルに睨みをきかせるアニシナさん。
「だからなぜ不本意だと決めつける!」
「おや、不本意ではないとでも?」
「えっ…」
そろそろ切れ気味で反論するグウェンダルを前にしながらも、
それに臆することなくポンポンと勢い良く爆弾発言を投下し続けるアニシナさん。
激しい舌戦を繰り広げていた二人だったが(実際は五分と言うよりかなりアニシナさんが押していた模様)、
急にその矛先が私に向いた。
不本意か不本意じゃないかって?
そ、そんないきなり核心を突く事を…!
「どうなのです?様」
「…(…!?)」
「えー…えーっと…」
突き刺さる二人分の視線が痛い。(特にグウェンダル)
いきなりそんな事を聞かれてかなり焦るんですが。
だけどこっちの心情なんか察してくれるわけもなく、答えを求める二人が私を急かした。
「さぁ様、遠慮せずばーんと仰ってしまいなさい!」
「…!!」
「…」
「不本意じゃ…ない、です」
「まあ…」
「…!」
意外そうな声を上げるアニシナさんと、ホッとしたような声のグウェンダル。
「そりゃあ最初は勘違い求婚そして結婚で戸惑いだらけだったけど…
今はグウェンがどんな人…じゃなくて魔族で、
どんな感情を私に持っていてくれてるかっていうのを知って…私もそれに応えたいって思った。
だから私はじゃなくて、フォンヴォルテール・としてここにいたいと思ってます」
「…」
「…」
「…っ!」
言い切ってからハッとした。
い、今物凄く恥ずかしい事言っちゃった、私!?
なんだかここに来てから、マシンガントークが移ってきた気がする…。
バカ、私のバカ!ゲーム脳!(?)
もっと考えてから喋れ〜っ…!!
「…そうですか」
「アニシナ」
「今日の所はこれで失礼します。グウェンダル、幼馴染みとして祝福しますわ。
…良い方と巡り逢えましたね」
「…そうだな。そう思っている」
今までとは打って変わり、アニシナさんは静かな口調で言葉を口にした。
活発かつ理知的な印象だった彼女だったけど、今は温かい微笑を浮かべているように見える。
静と動、そのギャップの美しさに、私は何も言えなかった。
そして踵を返し、アニシナさんは扉へ向かったのだった。
「ああ、でも」
「…え?」
ちょっと感動しかけてた私。
…だったけど、その感動も束の間。
言い忘れてたという様子で振り返ったアニシナさんにまた度肝を抜かれることになる。
「そこのただ大きいだけの男に嫌気が差したらすぐにわたくしに相談なさい!
すぐに画期的かつ効果的な解決法をアドバイスして差し上げますわ!」
わたくしは全世界の女性の味方ですから!
…そうアニシナさんの自信満々な声が、血盟城に響いた。
それから後に聞いたのが、赤い悪魔やマッドサイエンティスト、眞魔国の悪夢…などなど、
数々のアニシナ伝説だった。
恐るべし眞魔国。
否、恐るべし眞魔国の女性陣。
果たして私もその女性陣の仲間入りができるのか、これからの眞魔国ライフにかかっている。
って、別に仲間入りしなくてもいいんじゃ…!!
まぁとにかく、旦那様の幼馴染みとの初対面はこうして無事(?)幕を閉じたのでした。
「…すごい人だったね、アニシナさん」
「ああ。…ところで、先程の話だが」
「!!わ、忘れて!あれは忘れてー!!」
fin.
最早ノーコメント…。
2006.07.15 Mia