未だに頭が真っ白だった。
何でこんなことになったのか、見当もつかない。
…私は今、漆黒のウェディングドレスを着て教会らしき所に大勢の人に囲まれて立っています。
きゃにゅせれぶれー?
「おめでとうございます、兄上、姉上!」
「おめでとうグウェン、さん」
「お…おおおおめでとうございます、グウェンダル、様…」
「おめでとう…って言っていいの?さん、グウェン…」
「…さあ?」
口々に祝福の言葉を口にする人達。
私はそんな人達に囲まれて、もう「どうも」しか言えなくなっていた。
あれよあれよという間に服は着替えさせられ、私は真っ黒なドレスを身に纏っていた。
豪華な装飾、頭に被せられたベール。…そう、これはウェディングドレス。
ってーか普通ウェディングドレスって白じゃないのかよーッ!!?
事の発端はそう、私がフォンヴォルテール卿グウェンダルと言う方に平手打ちを喰らわせたから。
洗面台の水に襲い掛かられて、気付けば美形ばかりの異世界らしき場所に来ていた私。
そこで私は夢か現実かを見極める為に、自分の頬を抓るだけではイマイチ確信が持てなかったから
ちょうどその時目が合ったグウェンダルさんに殴られてもらったのです。
ええ、それだけなんです。
それなのに何故か、何ー故ーか私は教会でウェディングドレスを着て立っています。
私がやって来た(らしい)眞魔国という国では、相手の左頬を殴るのが「古式ゆかしい」求婚方だそうで。
つまり私は、知らない内に彼に求婚してしまったらしい。
金髪天使ヴォルフラムくんが去った後に、唯一の日本人・有利くんが涙を浮かべながら教えてくれました。
そういうことはちゃんと最初に言おうよ…!!
…とにかく、求婚をしてしまった私は彼と婚約関係に…って、ほんとは相手が右頬を差し出さないと
婚約は成立しないはずなのにですね、撤回する間もなく私たちは一夜限りの婚約者になってしまったのです。
(何故かって、そりゃ翌日の今日には式を挙げるから。)
そんな階段十段飛ばしみたいな事になったのは、お母様の出現でした。
「聞いたわよグウェンっ、あなたついに結婚するんですって!?」
ヴォルフラムくんが飛び出して数分…未だに誰も何も言い出せず重い空気が充満していた部屋に、
バタンっ、と大きな音を立ててそれはもうセクシーナイスバディーなお姉様が飛び込んできた。
そしてその後ろには、先程飛び出したヴォルフラムくんの姿も。
突然のセクシークイーンの登場に、また唖然となる一同。
彼女の親しげな口調からすると、彼の関係者らしい。
すっごいフェロモンムンムン。
意識しなくても、目がその大胆に開いたドレスの胸元…胸の谷間に行ってしまう。
数秒後、そこでようやく我を取り戻したグウェンダルさんが慌てた様子で口を開いた。
「はっ、母上!?何故それを…というか、何故ここに!?」
「たった今着いたのよ、たまには息子たちの顔を見ていこうと思って…
そしたら階段のあたりでヴォルフに会ってね…あなたが結婚するって言うから、あたくしもう驚いて驚いて!!」
「ま、待ってください母上…私はまだ、結婚するとは…第一求婚も、その娘の勘違いでは―――――」
「まぁっ、あなたがグウェンのお嫁さんね!ああ、なんて可愛らしい方なの!!
あたくしはグウェンの母親のフォンシュピッツベーグ卿ツェツィーリエ…ツェリって呼んでv
ああ、でもお母様も捨てがたいわー…だってあたくし、ずっと女の子が欲しかったんですもの」
ただ呆然とする私に、彼女は状況を飲み込む間も与えずに喋り続けた。
…ええ、未だに理解できてませんとも。
誰が母上なんですか?
誰が誰の、母上なんですかッ!?
「…紹介しよう…、と言ったか?」
「あ…ハイ」
「この方は前眞魔国魔王で現上王陛下…」
って事は、現魔王(らしい)有利くんの前の魔王さんねー…まさに女王様だー…
「…私の母だ」
「ちなみにコンラートもヴォルフも、あたくしの可愛い息子よv」
「ッ…………えぇぇぇぇぇぇえええええええ――――――――ッッ!?」
えええええ、マジで!?いや、冗談でしょ!?
このツェリ様って人がグウェンダルさんのお母さんで、グウェンダルさんのお母さんがツェリ様で、
ツェリ様の息子がグウェンダルさんとコンラートさんとヴォルフラムくんで………
ええ、ええええ!!???
「あー、やっぱり混乱してる」
「地球から来た者は何故この位の事で驚くんだ?ユーリ」
「そ…そりゃーだって…」
いくつで長男産んだんですか、ツェリ様…!!
「おねーさん、それについては後で説明するから…」
「君の説明はいつも遅すぎるのよ…!」
頼むから事後説明じゃなくて、事前説明にしてください。
そのお陰で私は、これからの一生を左右する大事な結婚をしかけてるんだから…。
「それで、実を言うとあたくしここへは用事の途中で寄っただけなの。
だから明日の夜には発たなくてはならなくって…」
「…そうですか」
「…だから、結婚式は明日にしましょうっ!!」
「「「「「「はぁああああっ!?」」」」」」
いきなりのツェリ様の発言に、この場にいた一同が驚かされた。
いや、明日って…明日って!!
急過ぎやしませんか、ツェリ様!?
二時間ドラマの展開だって、ここまで早くはないでしょう。
っていうか、求婚自体勘違いなんだってば…!!
「母上、さすがにそれは急過ぎるのでは…?」
「そうですよツェリ様、様はまだこちらに来たばかりですし…!」
「ツェリ様待って、ほらおねーさんもまだ混乱してるし!」
「ご提案は素晴らしいのですが母上、今からだと十分な準備が間に合いません!」
「ちょっと待ってください、大体私はまだ結婚するなどとは一度も…!!」
上からコンラートさん、ギュンターさん、有利くん、ヴォルフラムくん、グウェンダルさん。
ええ、全くもってその通りですグウェンダルさん…!
さっきのアレは私の無知ゆえの過ち!アクシデント!!
そうして皆が何とか必死で止めようとするけれど、
私達の思いは次に発せられる彼女の一言で儚くも打ち砕かれたのでした。
「あら、だって善は急げって言うじゃないv」
…この場合、善と言うのでしょうか?
いや、確かに結婚はしたいよ?
だけどそれは、いずれ、の話であって今ではないですよ?
今はまだ、ヲタク生活を続けていたいんです!!
一人で気楽なヲタクライフを送りたいんです!!
そして結婚するなら、私の趣味に理解のある人がいいんです!!
「そうと決まったら早速準備に取り掛からなくっちゃねv
あたくし張り切っちゃうわ〜、ああっ招待状も出さなくっちゃ!
さっ行きましょうさん、あたくしがドレスを見立てて差し上げるわっvv」
「な…お待ちください、母上!」
「グウェンも準備なさいね、式は明日なんだからっ!
ギュンター、細かい事は頼んだわよ〜!」
「はっ…私ですか!?」
「そうよ、ギュンターはあなたしかいないじゃない!
コンラートとヴォルフは、グウェンの準備の手伝いをしてあげて頂戴っ!
それじゃ陛下、また後ほどv」
嵐のようにやって来て、そして嵐のように去っていくツェリ様。
いや、正確には私を連れて嵐のように去っていくツェリ様。
待って、ちょっと待って誰か、ヘルプミー!!!
「…行っちゃった」
「改めておめでとう、グウェンダル」
「コンラート…それは嫌味か?」
かくして、私の結婚はもう後戻りできなくなってしまったのでした。
「じゃ…じゃあおねーさん、準備いい?」
「オッケー有利くん…もうどうにでもなれってんだ…」
目の前にそびえ立つ大きな扉の向こうから、なにやら音楽が聞こえてくる。
恐らくこれが、こっちの結婚行進曲とかなんだろう。
私のいた地球でよく聞くような、「パパパパーン」な結婚行進曲ではない。
「それじゃ、行こっか…」
ギィ、と扉が音を立てて開き、目の前には長い絨毯とそれを取り囲む人々…
そしてその向こうに祭壇らしきものとその前に立つ、新郎…グウェンダルの姿が見えた。
エスコート役の有利くんと、敷き詰められた絨毯の上を一歩一歩歩く。
荘厳な雰囲気の中で、招待客の魔族の皆さんが周りを取り囲んでいる。
どうしてこうも、皆さん美形揃いでいらっしゃる…!?
「…私さー、結婚式は絶対ハワイで挙げるって心に決めてたんだよね…」
「ハワイ…」
腐女子ながらも心に描いていた夢。
二人きりで、ハワイで挙式。
二人で神に愛を誓った後は、オープンカーに乗り込みそのまま海辺を走る…
そんな夢を持ってたんですがね!!こんな私だって!!
「何でこんなに招待客多いわけ?」
「あーほら…グウェンダルは十貴族だし、一応盛大にやらないとマズいからじゃないかな?」
「人前に出るのって苦手なんだよね、いっつも家で一人でパソコンやってるから」
カラオケで一緒に行ってもいい人数は、最大三人までです。
「しかもこの黒いウェディングドレス…縁起悪…」
エンギワルー!!
…鳥の鳴き声みたいなのが、聞こえた気がした。
隣で私をエスコートする有利くんは、もう出来るだけ私を刺激しないようにと思っているのか、
口数は少なかった。
結婚式だと言うのに、一緒にバージンロードを歩くのはお父さんじゃなくて年下の高校生・渋谷有利くん。
…ごめんなさいお父さんお母さん、娘の晴れ姿を見せてあげられなくて…!!
それどころか、地球から遠く離れた異国の地で勝手に結婚を決めてしまってごめんなさい。
せめてこの結婚が出来ちゃった婚ではないことだけが、唯一の親孝行だと思って…!!
祭壇に近づくたびに、私の頭の中で昔流行った結婚式の定番ソングが流れた。
当時やってたドラマのオープニング映像も一緒に。
きゃーにゅーせーれぶれーぃとぅ?
英語の教科書に出てきたキャサリンの声が脳裏によぎる。(教材テープ、あったよね)
ノーだよノー!!!!
あいきゃのっせーれぶれーぃつ !!!!
日本人留学生ミカボイスで応戦。
絶え間なく注ぐ愛の名を永遠と呼ぶことができたなら。
絶え間なく注ぐ愛は私には永遠に与えられそうもない気がする。
…こんななりゆき婚でcereblateなんて出来るかァアアア!!!!!
「お…おねーさん、落ち着いて、ね?」
「ここで落ち着いていられたら日中問題やら拉致問題はとっくに片が付いてると思うの、有利くん」
ガラガラと崩れていく、私の中に5ミリ程残っていた乙女の部分の夢。
そりゃあグウェンダルさんみたいな超カッコイイ…むしろ超タイプ!萌えー!!な渋系美形と結婚できるのは
願っても無いことなんだけどね?
国際結婚だって、お互いの事を分かり合えてるのならいいと思うの。
だけど彼、外国人どころか人間じゃないみたいだし?
剣と魔法と魔王様のRPGばりな世界に飛び込んでしまった挙句、結婚。
…今更だけど、物凄い事になってしまった…。
「じゃ、おれはここで…」
「ありがと、有利くん」
「…。」
だけどもう、ここで何を言っても遅い。
どうにもならない。
祭壇の目の前まで来たところで、私は有利くんからそこで待ってたグウェンダルさんへと腕を組み替えた。
身長差がありすぎて、正直ちょっと腕がツライ。
「それでは、新郎フォンヴォルテール卿グウェンダル」
「…」
「偉大なる眞王陛下の下に、妻となる者、・との永遠の愛を誓いますか?」
「………………はい」
散々間を置いた後、グウェンダルは「はい」と…そう答えた。
…認めた。
認めちゃった、この人…!!
「では、新婦・」
「はっ、はいっ」
よろしい、とグウェンダルの答えを聞くと、神父さん(…?)が今度は私の方を向いた。
「夫となる者フォンヴォルテール卿グウェンダルとの間に、永遠の愛を誓いますか?」
誓いますか…って…
昨日会ったばかりの素敵な渋男性に、愛を誓えと?
「…」
早く答えろ、「はい」と言え、と言わんばかりの周りの視線が痛い。
だけどすぐにそんな大事なことを言えるはずもなく。
「…新婦?」
「ち……」
さ、さすがにこの場で今更「誓えません」とは言えない…!
「ごめんなさい、私あなたとは結婚できませんっ…!」なんてドラマチックな展開には持っていけそうもありません。
だって私、チキンだから…!!
パソコンにブックマークしてある萌サイトだって、ほとんどROM専。
無記名拍手が精一杯なんです…!
そんな私が、ウェディングドレスのまま式場からエスケープ☆なんて出来っこないじゃないですか…。
って言うか、どうして神様じゃなくて魔王(眞王)の前で愛を誓う!???
何か…ものっすごい…エンギワルー!!
「……………誓い、ます……………」
ああ…言ってしまった…
お父さんお母さん、19年間本当にお世話になりました。
一言も断りもせずに嫁ぐ娘を、どうかお許しください…。
幸い向こうのお母様には気に入っていただけたようで、姑問題で悩むことなくやっていけそうです。
問題は、新郎に気に入られているかどうかですが。
「おめでとう、これより二人は偉大なる眞王陛下の元に婚姻関係を結びました。
病める時も健やかなる時も骨飛族もしくは骨地族となる時も、決して仲違いせず生涯を共に過ごせるように
眞王陛下の御加護がありますよう。新郎は新婦に結婚指輪を、そして誓いのキスを」
「ッ!?」
誓いのキス?キッス!?
「いやん、素敵!」とすぐそこでツェリ様が嬉しそうに言う声が聞こえた…。
そうですか誓いのキスですか…もうどうにでもなれってんだっ!!
「…手を出せ」
「…どぞ」
そうグウェンダルに言われ、左手を差し出す。
大きなグウェンダルの手が私の手を包み、それからその薬指にきれい結婚指輪がはめられた。
うッわ、高そう…
豪華な装飾が施された指輪。
質に入れたら、いくらくらいになるのかしら?何本新しいゲームソフト、買えるかしら?(爆)
「…」
「…っ!」
そんな頭の中の邪な計算は、一瞬にして忘れさせられた。
何年かぶりの、キスに。
指輪がはまるとすぐにグウェンダルは私の顎を掴み上を向かせると、私の唇に自分のそれを重ねた。
ぬわぁああああ、えええええええっ!!?
「素敵〜っvグウェンったらやるじゃないのv」
「母上…」
「〜〜〜っ…!!」
「…」
今度は遠くで、ツェリ様が呑気にそう言ってる声と、ヴォルフラムくんが呆れたように言う声が聞こえた。
いや、きっと位置はさっきと変わってない。
遠く感じるのは、私の意識が遠のいていっているから。
(ッ、く、苦しい――――――――!!)
普通誓いのキスって、「ちゅっ」って感じの軽いもんだよね?
映画じゃないんだから、ちょっとあんたぁああああ!!!!!
「…っはぁっ…」
ようやく唇が離れた。
…ディープキスしたのなんて、初めてだったんですけど…!
なんか…もう…。
「な、何するんですか…!!」
「…しきたりだ、仕方ないだろう」
あくまでもチキンな私は、小声で目の前のグウェンダルを睨んでそう言った。
しきたり!?
これがしきたり!?
…異文化コミュニケーションって、難しい…。
「では、これで若い二人の婚姻は認められまし…」
「さぁ、じゃあ早速結婚披露パーティーに移りましょうっ!」
「ツェリ様!?」
「母上!?」
ツェリ様のその一言で、結婚式場の中にテーブルや椅子が運び込まれた。
それから料理、飲み物…荘厳な雰囲気だった会場が、一気に華やいだ披露宴の様な雰囲気になる。
「ちゃんはあたくしと一緒に座りましょうねっv
グウェンは後でいくらでも一緒にいられるんだから、その辺でコンラート達と食べてなさいな」
「母上…」
「こんな可愛らしい方を独り占めできるなんて、グウェンったらずるいわぁ〜!
あなたの奥さんじゃなきゃ、あたくしと一緒に自由恋愛旅行に出ないかって誘うところなのにっ!
だからせめて今だけでもお話しましょ、ねっv」
…とりあえず、何度も言うようですが私はお母様には気に入られたらしい。
そして何度も言うようですが一番の問題なのは旦那様に気に入られてるかどうかです。
…私の新婚生活は一体どうなって行くのでしょうか?
to be continued...
まるマ三話目。
長くなりすぎてごめんなさ…!!
しかもなんかグウェン夢っていうよりツェリ様夢…orz
ツェリ様大好きです。
ツェリ様の言葉遣いって、簡単そうで難しい。
05.10.23 Mia
06.05.01加筆修正