「…ミス・…?」
「何でしょう、スネイプ先生」
010:それはきっと、確かな予感
ここホグワーツには、トラブルメーカーで有名な人物が…
いや、時々皆が予想もしない事を起こす事で有名な人物が三人いる。
その三人は、寮を問わず色々な生徒から尊敬の眼差しで見られたり慕われたりし、
そして一部の生徒からは畏怖されている。
三人の内二人は、言わずと知れたフレッド&ジョージ・ウィーズリーの双子。
そしてもう一人は…
「ミス・。今一度聞くが…」
「「このレポートは一体何なのかね」」
「…」
「でしょう?」
(((ーーーッッ…!!)))
悪魔の化身、ホグワーツの悪夢とも言われる(主にグリフィンドール生から)
セブルス・スネイプを前にしてもこの堂々とした態度。
ある意味で有名な最後の生徒は、この・だった。
「…ミス・。君は何だね」
「・ですけど。やだ先生、こんな可愛い生徒の名前を忘れちゃったんですか?」
「そういう事を聞いているのではない!!君はこの学校で何の役割なのか、それを聞いている!!」
「あぁ、学生です」
「では我輩は!」
「魔法薬の先生です」
「それだけわかっているのなら、教師である我輩に対してその様な軽口を叩くのはやめたまえ」
「すいません、英語がまだ不完全で。willとcouldの使い分けが!」
(((校長から自動翻訳魔法のかかったペンダント貰ってるくせに…)))
青ざめながら二人の会話を聞く、地下牢教室の他の生徒達。
自分にとばっちりが来ないように、皆一様にして俯き二人と目を合わさないようにしている。
意味は違えど、“東洋の魔女”とはよく言ったものだ。
イギリスから遠く離れた島国、日本からやって来たこの少女は、鬼も悪魔もものともせず、
目の前に立ちはだかる校内で最も恐れられているであろう人物の尋問に怯える様子もなく淡々と答えていた。
「それで、一体これをどう釈明するつもりかね?ミス・」
「見たまんまです、先生!」
スネイプが「これ」という単語にアクセントをつけながら、ひらりとかざした一枚の羊皮紙。
その長さ、30センチ。
「先生が縮み薬についてを30センチのレポートにまとめ提出しろと仰ったので、それを出しました。
足りなかったですか?長さ」
またしてもけろりとしたの返答に、スネイプのこめかみがピクピクと引きつっている。
その様子を見た他の生徒達は、次に来るであろう衝撃に備え、耳を両手で塞いだ。
「我輩は長さの事を言っているのではない。内容だ、!!」
バーン、と大きい音がして、の提出したレポートが教卓に叩き付けられた。
その乱暴な音とスネイプの怒声に、他の生徒達はびくりと体を硬直させる。
だが、怒鳴られた張本人のは特に気にした風でもない。
「レポートの書き方すら忘れたか!」
激昂するスネイプが、のレポートを振りかざす。
…その内容は、皆が唖然とするようなものだった。
30センチの羊皮紙の面積の半分に描かれた、筒のような絵。
それを説明するように矢印が各所に向けて入れられ、大きめな文字で文章が記されていた。
ご丁寧にイラストには、色まで塗られている。
「我輩はレポートに絵を入れるよう指示した覚えはないし、
大体からしてこれは縮み薬の説明ではないと思うのだが?」
沸々とこみ上げてくる怒りをなんとか押しとどめながら、スネイプはに再度レポートの内容を問う。
「ああ、それはスモールライトです」
「スモールライトだと?」
スネイプだけでなく、教室中にいた生徒全員が「?」という表情をする。
あのドラコ・マルフォイまでが呆気に取られた顔でのレポートを見上げていた。
「いいですか!」
「なっ、何だ」
「スモールライトとは、二十…ええと、何世紀だったかな。
まぁそれはいいや、未来からやって来た某猫型ロボットが、お腹の四次元ポケットから取り出す
ライトの事です!この光を浴びるとあら不思議!どんなものでも小さくなります!
ついでに縮小スイッチだけじゃなく復元スイッチもついているため、元に戻すのもアラ簡単」
勢いよく椅子から立ち上がり、はスネイプに向かって熱弁を揮う。
それは、彼女がいた国では子供に大人気のちびま●子ちゃん、サ●゛エさんと並ぶ
某国民的人気アニメキャラクターの秘密道具。
「だからこんなしちめんどくさいこと(注:魔法薬作り)するよりも、
これを発明することに時間をかけた方がずっと建設的だと思うんです!」
…言い切った。
彼女の熱弁を、その隣の席に座り、今とてつもなく恐ろしい表情をしているであろう
スネイプから目を逸らして聞いていたハーマイオニーは、頭を押さえた。
あろうことに魔法薬学教授の前で魔法薬作りを「面倒くさい」と言い切った。
彼女が発言を終えると、シーンと地下牢教室中が静まり返った。
誰もがその発言内容に驚嘆(呆れた、とも言う)し、
魔法薬学及びその教授を嫌うある者は彼女のその勇気に内心拍手を送った。
そしてそのの爆弾発言を言われた張本人であるセブルス・スネイプ教授はと言うと、
今やその表情は般若よりもなまはげよりも恐ろしいものであった。
「…言いたい事はそれだけか?」
「はい。わかっていただけましたか?」
「………では罰則を与える。今後三ヶ月間毎日授業終了後に、この教室と準備室を掃除する事。
勿論我輩がチェックをして、隅々まで掃除が行き届いたか確認するまでは帰さん!」
「めんどくさ…」
「及びグリフィンドールマイナス1000点!!ミス・は後で残るように!」
最早恒例行事となっているグリフィンドールからの点引きは、この日途方もない数が出て終わった。
ほとんどの生徒がそりゃああれだけ言えばスネイプも本気でキレるだろう、と思いつつも、
の言い切った後の清々しい表情を見ては何も言えなかった。
そして、放課後。
「ミス・。一体どういうつもりかね?我輩を冒涜するのか?」
「思ったまでの事を言ったまでです」
生徒が去った地下牢教室のスネイプの机の前に、一人残ったが立っていた。
いつも以上に眉間に皺を寄せ、すこぶる機嫌が悪そうなスネイプを前にしても
相変わらずはしれっとした表情で臆する事なく堂々としていた。
日の殆ど射さない教室に取り残されたと、その教室の主であるスネイプ。
他の生徒なら泣いて逃げ出したくなる状況だろう。
「常日頃言っているが、毎度毎度どうしてそう教師に対し軽口を叩く?
大体罰則も今日で何度目だと思っている、ミス・」
「えぇと…もう数えるのもめんどくさくてやめちゃいました」
「今日で256回目だ、ミス・!」
そう、スネイプの言うとおりが罰則を受けるのは入学以来通算256回目。
スネイプとお互いいがみ合っているハリーでさえ、ここまでの罰則は受けていないだろう。
どうしてこのような恐ろしいまでの回数の罰則を、彼女が受けているのか。
あのような行動ばかりしていれば、自分から罰則を受けに行っているようなものだ。
「もう256回目なんですね、長いなぁー」
「感心している場合ではない!いい加減我輩の手を煩わせ、授業の進行を妨げるのはやめたまえ。
一々君のくだらない行動に説教をしているほど、我輩は暇ではない」
「そう言いながら、毎回きっちりみっちり説教してくれるくせに…」
「無駄口は叩くな!その口、二度ときけなくしてやろうか!?」
「先生!」
スネイプが怒鳴りかけた所を、が遮る。
授業中に立ち上がり、某秘密道具の使い方を皆の前で熱弁した時と同じようにはっきりと。
「まだわかってくれないんですか?」
は真っ直ぐスネイプの闇色の瞳を見つめ、彼がわかってくれるのを期待しているようだったが、
わかってくれない?何をだ?と、スネイプはまったくわかる様子もなかった。
「君が何を言いたいのかさっぱりわからんね」
「…いい加減気付いてくれると思ったんですが」
先生って鈍いですね、と言いながら、はハァ…と溜め息をついた。
「どうしてわざわざ授業の後に残されるようなことをするのか。
罰則をもらって、お説教されるのか。どうしてかわからないんですか?」
「…?」
「授業の後に残されてお説教されるとき、他に誰かいますか?
罰則は大抵先生の手伝いやら教室の掃除やらで、二人きりになれる」
が少しずつヒントを出していく。
彼女の言葉を頭の中でひとつひとつ噛み締めていくと、スネイプの脳裏にある一つの「可能性」が浮かび上がった。
そんな、まさか…いや、彼女ならもしかして、と。
「まさか、わざと…」
「…今日から三ヶ月間でしたよね。それまでに絶対、気付かせてあげますから」
にこりと笑ったの顔が、スネイプの目に映った。
悪戯っ子のような、でも大人の女性のような笑み。
秋風のように、スネイプの心を駆け抜けていった。
それはきっと、確かな予感。
fin.
レポート終わんねー…
06.09.25_Mia Fujiwara