「じゃあ、また明日ね」





秋も深まってきた日の夕方。

校門は授業を終え帰宅する大勢の生徒で賑わっていた。

門の中のグラウンドからは、運動部の掛け声が聞こえてくる。

そんな中で、他の生徒と同様に授業を終えたは友人と校門の前で別れた。





「うん、またね!」





友人に手を振り、それからは家路に着いた。

校門を出た所ではまだたくさんいた学生も、道を進む度にだんだんと減っていく。

もう10月も終わりに近づいていて、夕方でもかなり暗くなってくる。

人気の無い暗い道に、の足取りは無意識の内に速くなる。

この間買ったばかりの鞄の取っ手をきゅ、と握りしめて、は家を目指した。





「おい、ちょっと」

「…え?」





もう少し…そこの角を曲がればもう家が見えてくる、という所で、

は後ろから不意に呼び止められた。

振り返ると、そこには自分と同じ学校の制服を着た体格のいい男子が数名いた。

着崩した丈の長い学ランに、安っぽく染め上げられてリーゼントに固められた髪。

何人かの口元には、火のついた煙草が咥えられている。

つまりは俗に言う、不良。

彼らは校内…いや、この近辺でも有名な、不良グループだった。





「な…何か用…?」





彼らを見て、は即座にまずい、と思った。

校内でも彼らにお金を巻き上げられたと言う生徒の声は後を絶たない。

それどころか、暴力を振るわれた生徒だって少なくないのだ。

がさてどうしたものかと考えている内に、「ちょっと付き合いな」と言われ

は細い路地にあっという間に連れ込まれてしまったのだった。





「私、お金そんなに持ってないんだけど…?」





恐る恐る用件を聞くだが、グループのリーダー格の生徒はニヤニヤして彼女を見下ろすばかり。

壁と不良たちの間に挟まれて、は完全に逃げ場を失っていた。





「嘘ついてんじゃねーよ、お前んち金持ちだって噂じゃねえか」

「嘘じゃないわよ、ほんとだって!」

「見せてみな、財布財布っと…」





そう言うや否や、不良の一人がの学生鞄を引ったくり、中を漁り始めた。





「やめてよ、ちょっと!」

「…なんだ、ホントにこれしかないじゃねえか」

「ったく、お嬢様だっていうから期待してたのによォ。とんだ期待外れだぜ、ほらよ」





不良はの財布から二千円を抜き取り、鞄を投げて寄越した。

落としそうになりながらもなんとか受け取り、はキッと彼らを見た。





「もういいでしょ?そこどいて」

「おいおい、そんなに急がなくてもいいじゃねぇか優等生」

「そうだよ、俺達と遊ぼうぜ?これから街に行くから、お前も来いよ」





(人をカツアゲしておいて、何言ってんのよこいつらは――――――――ッ!!)





そんな心の叫びも空しく、は右手をぐいっと掴まれてしまう。





「痛っ…」





乱暴に掴まれた腕の痛みに、顔を顰める

相手を睨むが、さして効果はないようだった。





「っ…離して!!」

「あっ、この野郎…」





は思い切り、掴まれた右手を振り払った。

その事に驚いた不良は思わず声を荒げに掴かろうとするが、それをリーダー格の生徒が制した。





「噂通り、気の強い女だな」

「なっ、何よ…」

「気の強い女は嫌いじゃない…おい」





そう言って周りの不良に合図すると、彼らはの体を壁に押さえつけた。

ドン、と背中が壁につき、ますます逃げられない状況になってしまった事をに思い知らせる。

どうにかして拘束から逃れようとじたばたと体を捩ってみるが、

男数人に押さえつけられては敵うはずもなかった。

そうこうしている間に、リーダー格の生徒はゆっくりとににじり寄って来る。

そしてすぐ目の前まで来ると、口にしていた煙草を投げ捨てての顎を掴み無理やり上を向かせた。





「顔も良いし胸もあるし…上玉だな、こりゃ」

「やっ…やめて!触んないで!」

「おいお前ら、しっかり捕まえておけよ…」

「きゃあっ!」





プツッと音がして、ブレザーのボタンが飛んだ。





「やーっ、誰か、助けて!!」





の絶叫が、裏路地に響く。

…と、その時。





っ!!」





「!」

「っ…間ぁっ…」





息を切らした黒男が、そこに飛び込んできたのだった。

突然の第三者の登場に、驚く不良生徒たち。

は見知った顔の彼を見て、安堵の表情を浮かべた。





「何だお前…邪魔すんじゃねえよ」

を離せ」

「ふざけんなよ。折角これからイイ事しようってのに…消えな、このツギ野郎が!」

「離せって言ってるだろ!!」

「ぐわッ!」





の制服に手をかけていたリーダー格の生徒を、黒男は思い切り殴りつけた。

突然の事に周りの不良も驚き、を掴む手が一瞬緩む。

その隙を見逃さずに、黒男はの手を掴み自分の方に引き寄せて背中の後ろに隠した。





「大丈夫か、

「う、うん…」





肩越しに振り向いて、黒男はにそう聞いた。

いつもは気丈なも、さすがに恐怖を感じたのだろうか…震える手で黒男の学生服を掴んでいた。





「テメェ、何しやがる!」

「お前ら、やっちまえ!!」





ほっと一息つく間もなく、不良たちが今度は黒男に殴りかかって来る。

黒男は「下がってろ、」と言うと、不良たちの攻撃がに及ばぬよう彼女を後ろに下がらせた。





「っ…」

「きゃあっ、間ーっ!!」





黒男は寸での所で攻撃をかわし、相手の隙を付いて殴りつける。

元々喧嘩には、強い方だった。

だが如何せん、一人対複数では分が悪すぎる。

ぐるっと周りを取り囲まれ、蹴りやパンチを浴びせられた。





「…」





周りを見渡し、黒男は考える。

どう考えても、こちら側に勝機はなかった。

このままでは埒が明かない。





「…―――――――――逃げるぞっ!!」

「えっ…あ、うん!!」





黒男は不良たちの輪をすり抜けると、彼はの手を取って走り出した。

薄暗い裏路地を、走り抜ける。

後ろから不良たちの怒声と追いかけようとする足音が聞こえたが、

振り返らずにとにかく彼は走った。

そしてしばらく走ると、ようやく明るい道に出たのだった。










「…はぁ、はぁ…」

「……大丈夫か…?」

「うん、何とか…」





短時間だが、とにかく全速力で走ったため二人の息はかなり上がっていた。

それでもようやく落ち着き始め、二人は顔を見合わせてお互いの無事を確認しあった。

それから未だに手を繋ぎ合っていた事に気が付き、慌てて手を離した。

二人とも、顔が赤い。





「っ、間、血出てる!」

「ん?ああ、こんなの大した事…」

「バカッ!」

「なっ…(助けた相手にバカって言うか、普通?)」





それからは、離した黒男の手から微かに血が滲んでいるのを見つけた。

先程不良を殴った時に、切れてしまったのだろう。

大した傷ではなかったので黒男はそのまま放っておこうとしたのだが、

それをが怒った。





「ここも怪我してるじゃない、ばか!」

「バカって言うな!」





不良に殴られた黒男の唇の左端から、血が出ていた。

血が滲む黒男の唇にの指がそっと触れ、それから彼の頬を両手で覆った。

彼女の手が、震えている。





「ばか、ばかっ…なんで、こんな事…」

「何でって…………?」





目の前のの瞳から、涙が溢れていた。

震えた手で黒男の頬を挟み、ばか、ばか、と繰り返している。

いつもは気が強いが、泣いている。

そんなを目の当たりにして、黒男は驚きを隠せなかった。





「何でが泣くんだ…」

「だって…だって!」

「別にそんなに痛くもないし、平気だって…」

「そういう問題じゃないのっ!!」

「?」





女の子に目の前で泣かれた事のない黒男は、目の前で涙をぽろぽろと零し続けるに戸惑う。

とりあえず指で涙を拭ってやり、「泣くなよ」と言葉を掛けた。





「…ほら、早く手出して!」

「え?ああ…」





ようやく涙が止まったが、思い出したようにブレザーのポケットを漁ってハンカチを取り出し、

黒男の右手に巻いた。

まだ少し血が滲んでいて、白いハンカチが微かに赤く染まる。





「血で汚れるぞ?」

「そんなのいいのっ」



「?」

「…無事で、良かった」

「っ…」





黒男があの路地の近くを通ったのは、本当に偶然だった。

あの近くで用事があったため、たまたま近くの道を歩いていたら、の声が聞こえてきたのだ。

その声に自体を察した黒男は、走ってその声の元へと向かった。

そして幸い、間一髪の所で間に合ったのだ。





「…助けてくれて、ありがとう」

「別に」





お礼を言うに、黒男は照れているのかそっぽを向いた。

だがしっかりと手は、に握られていて。

そこからの体温が、伝わってきた。





「立てるか?」

「え?あ、うん」

「…家まで送る」





そう言って黒男は立ち上がり、に握られていた手を今度は逆に握り返し、その手を引いて彼女を立たせた。

それからその手はすぐに離したが、二人は並んで歩き出した。


すっかり日も落ちて街灯が灯った道を、会話もせず彼女の家に向かって歩く。

二人の間に会話がないのは、きっと二人ともお互いの存在を強く意識しだしたからだろう。


これからの二人の関係に何か進展があるのかはまだわからない。

しかしこの日の出来事は、二人が自分の中での相手の存在の大きさを変えていくきっかけになったに違いない。










fin.

ネタbyみかちゃん!
みかちゃんとのメールで生まれた萌えを、形にしてみました。(笑)
ズバリ「不良から黒男タンに守られたい」!!(笑)
昭和のスメルを出したかったんですが撃沈…orz

05.10.22 Mia