どうしてこんな事になっているんだろう。
俺は目の前の眩しい状況に、軽い目眩を覚えた。
お 料 理 し ま し ょ ?
「ただいま!
ごめんね、遅くなっちゃった―――――――…って、あれ?」
「お帰り、」
「ピノコちゃんは?」
学校から帰ってきたは、すぐにある異変に気が付いた。
鍵も開いていて、電気もついていて。
リビングのソファには、ブラック・ジャックが座って本を読んでいる。
一見いつものB・J邸とは何ら変わりは無い。
しかし、そこには…ピノコの姿がなかった。
いつもはが帰宅するとすぐに「おかえりなちゃい!」と元気よく飛びついてくるピノコ。
たまに遊びに出掛けていてが帰宅した時にいない時もあるが、それは昼間の話だ。
現在時刻は8時…どう考えても、家にいないはずはない。
「友達と一緒に、隣町の神社の祭りに出掛けたよ」
「あぁ、写楽くんとかぁ」
ブラック・ジャックの返答に、首をもたげて考える。
すぐにの頭に、一人の少年が浮かんだ。
の友人である和登の弟、写楽だ。
今夜はどうやら、ピノコは彼と一緒に出掛けてまだ帰らないらしい。
「先生、御飯食べた?」
「…いや」
「だと思った」
部屋から食事をした様子が感じられないので、はそうブラック・ジャックに聞いてみる。
予想通りの答えが返ってきたことに、は少しおかしそうに笑いながらそう言った。
「が帰ってきたら一緒にどこかに食べに行こうかと思ってたんだ」
「あ、いいよそんなの!家で食べよ?すぐ用意するから」
「無理しなくていいぞ?疲れてるだろ、」
遅くまで学校に残って勉強していたを気遣って、そう言葉をかけるブラック・ジャック。
だがは、笑ってそれを断った。
「大丈夫、平気だよ」
「だが…」
まだ何か言いたげな表情を見せるブラック・ジャック。
そんな彼に、は何か思いついた顔をした。
「あ、じゃあ」
「?」
「先生、手伝ってv」
…そして、今に至る。
手伝って、とに満面の笑みで請われ、断れるはずもないブラック・ジャックは
に手を引かれるままキッチンへ連れて行かれ、人参、じゃがいも、玉葱…と
てきぱきと材料を用意する彼女を、ただ呆然と見ていた。
「…?」
「ん?何、先生」
「俺はどうしたら良いんだい?」
ここ数年ピノコという家族が出来てから、
ブラック・ジャックは台所に立ったことはほとんどなかった。
それにピノコがいなかった時だって、外食中心で食事を賄っていた。
決して料理が出来ないわけではないが、てきぱきと進めていくの後ろにいると
何をして良いかわからないのだ。
「じゃあ、野菜洗ってください」
「わかった」
居心地の悪そうに立っているブラック・ジャックが可笑しかったのか、
はくすりと笑うとそう指示を出した。
素直に言われた通りに、流し台に用意されていた野菜を水で洗うブラック・ジャック。
その隣に立ったは彼から野菜を受け取ると、器用に皮を剥いてく。
「、全部出来たぞ」
「あ、ありがと先生――――――――…っ!」
「!」
ブラック・ジャックの声に顔を上げた瞬間、痛、とが声を上げた。
彼に呼ばれたことで、一瞬気が逸れたのだろう。
の左の指先には、赤い血が滲んでいた。
「大丈夫か!?」
「うん、平気…ちょっと切っちゃっただけだから」
「そんな事はないだろう、ほら手を貸して――――――――」
「あっ先生、ほんとに大した事ないからっ…」
ぐい、との手を掴み、傷の深さを確認するブラック・ジャック。
確かにそんなに深い傷ではなかったが、彼を驚かせるには十分だった。
すぐに彼は棚の上に置いてあった救急箱を手にとると、
その中から消毒液と絆創膏を取り出して、の傷に処置を施していく。
「…染みるかい?」
「…平気デス」
真剣な表情で処置をするブラック・ジャックに、は少し顔を赤らめながら答える。
自分の前で、他の人には見せない表情もたくさん見せてくれるブラック・ジャックだったが、
は怪我の処置をしたり、仕事をしている最中に彼が見せる真剣な表情が
とても好きだった。
「これでよし、と。…全く、驚いたぜ?」
「ごめんね、先生」
「傷が深くなくて、良かったよ」
申し訳なさそうにそう謝るに、ブラック・ジャックは微笑んで
彼女の手を取り指に巻いた絆創膏の上に、ちゅ、とキスをした。
彼のその行動には恥ずかしそうにしながらも、笑顔を見せる。
「じゃあ、再開するか」
「うん!」
「先生、味見してくれる?」
「ああ」
「どう…?」
「ん…美味しいよ、丁度いい」
小皿をブラック・ジャックに手渡して、少し緊張した面持ちで味見の感想を待つ。
彼のその言葉を聞くと、安心したのか彼女の表情がぱぁっと明るくなる。
じゃあこれで、完成!と、嬉しそうには完成した料理を皿に盛り始めた。
「」
「なぁに、先生―――――――っきゃ!?」
盛り付けた皿をカウンターに一旦置いたところで、はまた驚くことになる。
――――――ブラック・ジャックが、後ろから彼女を抱き締めたのだ。
「先生、どうしたの?」
「いや…たまにはこういうのも良いな、と思ってな」
「え?」
「…結婚しているみたいだ、と思わないかい?」
「っ!」
耳元で囁かれる言葉に、は真っ赤になる。
結婚しているみたいだ、とブラック・ジャックは言った。
まだ先の話かもしれないが、だが少なからず一度はそうなれれば良いな、と
望んだことのあるそれを彼の口から聞くと…
思わず心臓が、跳ね上がる。
「可愛かったぜ?おまえさんのエプロン姿――――――――…」
「っふあ、そんなこと―――――――」
の耳にふ、と息を吹きかけるように語りかけるブラック・ジャック。
トントン、と聞こえる規則正しい包丁の音、煮立った鍋――――――――
エプロンをつけてキッチンに立つの後姿が何だか若奥さんの様で、とても可愛らしくて。
抱き締められずには、いられなかった。
「っさ、御飯にしよう!お腹すいたでしょ?」
「…ああ、そうだな」
首筋にキスを落とし始めたブラック・ジャックを慌てて遮るように、
はばっと体を反転させて話題を変えようとする。
元気のある言い方だったが、余裕は全くない。
そんなにブラック・ジャックは不満そうな顔を見せるが、
せっかくと一緒に作った料理だったので、黙ってそれに従ったのだった。
「いただきます」
「いただきます」
「…やっぱりの作った料理は美味いな」
「そんなことないよ、今日は…先生が手伝ってくれたから、特別上出来なんだ。
ありがとね、先生」
向かい合わせにテーブルにつき、二人は食事を始める。
にっこりとその顔に満面の笑みを浮かべ、ブラック・ジャックにそうお礼を言った。
そんなに大した事はしてないぜ、と言いながらも、ブラック・ジャックも
嬉しそうな顔を見せている。
「たらいまぁーっ!」
「!ピノコちゃん?お帰りなさい!」
「おかえり、ピノコ」
すると、玄関のドアが勢いよく開いてピノコが帰宅した。
走って帰ってきたのだろうか、少し合わせが乱れた浴衣を着て、
その両手には風船やヨーヨー、小さな赤い金魚の入ったビニール袋など、
様々なものが握られていた。
「ウワァいい匂い!カレーにちたのね」
「今日は先生も手伝ってくれたんだよ」
「ピノコも食べたーい!」
「おいおい、おまえはお祭りでどうせたくさん食べてきたんだろう?」
「カレーはべちゅばらなのよさ」
「じゃあ、すぐ用意するね」
くすくす、と笑い、ピノコの分のカレーを盛るためには立ち上がる。
ダイニングのテーブルでは、楽しそうにお祭りのことをブラック・ジャックに報告するピノコの声、
そしてそれに相槌を打つブラック・ジャックの声が聞こえた。
そんな二人の声を背に、は密かに嬉しそうな、幸せそうな顔をして
二人に気付かれないように、微笑った。
願わくば、こんなさりげなくも幸せな日常が続きますように。
そんなことを、思いながら。
fin.
65000hitキリリクで、侑香さまへのB・J夢で一緒にお料理、でした!
ああー、長い割に内容薄くて済みませんー…!!!(滝汗)
先生は料理は出来ると思うけど、普段はピノコに頼り切ってそうなイメージです。
メスさばき同様、魚とかさばかせたら絶対上手そうだなぁ(笑)。
アワワこっぱずかしい駄夢、失礼致しました!!
65000hit、本当に有難う御座いましたv
リクエストくださった侑香さま、どうか受け取っていただけたら幸いです。
05.07.22 Mia拝