「先生、あのね」

「ん?」

「…キス、して?」

「仰せのままに、お姫様」















同 じ だ け の 、 愛 情 で















が熱を出したのは、学校から帰ってきてからの事だった。

名医ブラック・ジャックの診断は、風邪。

倒れ込むようにソファに沈んだ彼女は、ブラック・ジャックによって部屋まで運ばれた。

心配するピノコを彼女の側から離し、点滴などの処置を行う。

その後彼は付きっきりで息苦しそうに眠るの寝顔を見守っていた。





「…っ、ん…?」

?」

「せんせぇ…」

「気分はどうだ?熱は…大分下がったようだな」

「…」





まだ少しまどろんでいるような瞳のに、

額に手を当てながら落ち着いた声で問い掛けるブラック・ジャック。

その瞳に彼を捉えると、は安心したように小さく微笑んだ。





「ったく…いきなり倒れるから、心配したぞ?」

「うん…ごめんね。家に着いたら、安心して力抜けちゃったみたいで」

「無理はするものじゃない」

「…はい」





少し怒ったような声色で言うブラック・ジャックに、

しゅんとして返事をする





「…倒れたのが家で、良かった」

「へ?」

「すぐにおまえを助けてやれなかったら、困るからな」

「…ありがとう、先生」

「…お粥、食べるか?ピノコが作って置いてあるんだが…」

「食べる、なんかお腹すいちゃった。動いてないのにね」





照れくさそうにそう話題を変えようとするブラック・ジャックに、

は可笑しそうに、でも嬉しそうに言葉を返した。

そして食べる、と言うの返事に、一旦部屋を出てキッチンへと向かうブラック・ジャック。

数分後に、彼は四角いトレーに温め直したお粥と水の入ったコップ、

そしていくつかの薬を載せての待つ部屋に戻ってきた。





「起きれるか?」

「うん…あ、ありがと、先生」





さり気なく背中に手を回し、が上半身を起こすのを手伝うブラック・ジャック。

力強い腕に支えられたは少しだけ恥ずかしそうな顔を見せた。

くしゃり、との頭を撫でると、ブラック・ジャックはサイドテーブルに置いたトレーから

お粥の入った茶碗を手に取り、スプーンでお粥をすくうとの目の前に差し出した。





「…先生…?」

「…ほら、口を開けて」

「っいいっ、自分で食べれるよ!!」





差し出されたお粥を前に、は顔を真っ赤に染めてぶんぶんと首を振る。

一方のブラック・ジャックはいつもと変わらない表情で、スプーンを差し出している。





「子供じゃないんだから、もう!」

「…

「う…」



「あ…あーん…」





有無を言わせないブラック・ジャックの視線に、はついに諦めて口を開けた。

口腔内に広がる、ピノコ特製粥の味。

恥ずかしさの余り先程よりも一層頬を赤く染めて、視線をブラック・ジャックから

逸らして租借する

そんな彼女の姿を見て、ブラック・ジャックは満足そうにその端正な顔に笑みを浮かべた。





「ほら、あーん」

「…あー…ん…」

「美味しいかい?」

「それはもう、とっても」





相変わらずブラック・ジャックを直視しないで、ぶっきらぼうに返事をする

与えられるお粥を食べ終わる頃には、彼女の恥ずかしさはピークに達していた。





「先生、こんなことして何が楽しいのよ…」

「風邪をひいた恋人に尽くして、何がいけないんだい?」

「食べさせてとまでは、頼んでないからっ」

「良いじゃないか、別に」

「こっちは恥ずかしいのっ!!」

「ほら、水」

「…。」





別段怯む様子もなくコップを手渡すブラック・ジャックに、

はこれ以上もう何も言えなかった。





「今度先生が風邪ひいたら、同じことしてやるんだから」

「何か言ったかい?」

「いーえ、何も!」

「…その時は喜んで、お受けするよ」

「…」





聞こえてるじゃん、と思いながらも無言で

ようやくブラック・ジャックの方に視線を向ける

一瞬だけと視線を合わせたブラックは、またサイドテーブルの方に向かい

今度は薬を取り出した。





「さぁ、飲みなさい」

「はーい…」





ブラック・ジャックから手渡された三種類の薬を受け取り、

一つ目の薬…丸い錠剤を口に放り込み、水と一緒に飲み込む。

二つ目のカプセルも、また同じように飲み込む。

そして、の手が止まった。





「…?」





のてのひらの上に残ったのは、袋に入った粉薬。

最後の一つを目の前にして、は一向に薬の袋を開ける気配を見せなかった。





「どうかしたのか?」

「っ!んーん、なんでもないよっ?」

もしかして…」





もしや…と思い、ブラック・ジャックはに問い掛ける。





「粉薬、飲めないのか?」

「っ…」





うっ、という顔をするを見て、ブラック・ジャックはすぐにその答えがYESであることがわかった。

さらさらと袋の中で流動する白色の粉薬と、は無言で向かい合っている。





「大丈夫だ、苦くない」

「苦くても甘くても、イヤ…」





そう声をかけたが、帰ってきた返事はNO。

どうやらは、苦い苦くないの問題ではなく、粉薬自体が飲めないらしい。





「ね、二つも飲んだし、これ飲まなくても平気だよね?ね?」





冷や汗を流しながら、ブラック・ジャックがその“敵”を飲まなくてもいい、

と言ってくれるのを期待してそう聞いてみる

しかし、ブラック・ジャックから返ってきた答えは…





「駄目だ」





予想通りの答えに、がっくりと肩を落とす

どんなに“お願い”と潤んだ瞳で見ても、彼はの望む返事はくれなかった。





「やだっ、無理だから!」

「ちゃんと飲まないと、早く治らないぞ」

「早く治らなくていいーっ!!」





子供のように駄々をこねるを前に、軽く溜息をつくブラック・ジャック。





「…子供じゃない、んじゃなかったのか?」





先程お粥を食べさせたときにが言った一言を思い出し、

言い聞かせるようににそう問うブラック・ジャック。





「粉薬を飲むくらいなら、子供で良いもん」

「あのなぁ、…。」





断固として聞き入れてくれないを前に、ブラック・ジャックはどうしたものかと頭を抱えた。





「学校に行けないぞ?」

「だから、別に早く治らなくても良いってば」

「早くに元気になってもらわなければ、俺が困る」

「…ごめんね、先生」





最後の切り札のその一言を持ち出しても、は折れなかった。

こういう時の意志は、非常に固いようだった。





「…、飲みなさい」

「や、です」



「絶対無理」





最早根競べか…と思われた矢先、ブラック・ジャックはとある事を思いついたような表情を浮かべた。







「だから無理だって―――――――――!」





名前を呼んだかと思うと、ブラック・ジャックはくい、との顎を引き寄せる。

そしての唇と自分のそれを重ねたかと思うと、の喉の奥に水が流し込まれた。





「っ、せん…せ…!」

「まだ半分、残ってる」

「んう…っ…」





ブラック・ジャックは、自分の口に水と薬を含むと、に口移しで飲ませたのだった。

ブラック・ジャックのキスに酔うように、は薬を飲み干してしまう。

そしてが全て飲み込んだのを確認すると、ブラック・ジャックは再び彼女に口づけた。





「はぁっ…先生、何す――――――」

「こうしなきゃ、おまえさん飲まないだろう?」

「だからって…」





まだ少し恍惚とした表情で、ブラック・ジャックを見る

そんなの視線に気付いたブラック・ジャックは、にやり、と

してやったりといったような表情で口の端を上げて笑った。





「風邪移っても知らないよ?」

「…そうしたら、おまえさんが看病してくれるんだろう?」

「…そっか、そうだったね」





ようやくいつもの笑顔を取り戻し、ブラック・ジャックに笑い返す





「ご飯食べさせてあげるし、粉薬も飲ませてあげるよ」

「俺は一人で飲めるけどな」

「それでも」

「?」

「先生が私にしてくれたこと、全部してあげる」

「…ああ、ありがとう」





そう言うとにこり、と微笑んで、はブラック・ジャックを見つめた。

もし彼が自分と同じような状況になったら…

その時は彼が自分に与えてくれた愛情と、同じだけの愛情で返そう…そう心に、誓った。





「先生、あのね」

「ん?」

「…キス、して?」

「仰せのままに、お姫様――――――――」














fin.

久々のB・J夢ですー…ネト復帰した癖になかなか夢アップできなくてすみませんでしたー…!

風邪ネタはまだ書いてなかったはず…と思い書いてみました。

最近ネタ切れだべさー…orz


05.05.16 Mia