深い海の奥に住む、人魚姫の恋物語。
それは美しくも哀しい、セレナーデ。
ニ ン ギ ョ ヒ メ 。
「たらいまぁ、ーっ!」
「おかえりピノコちゃん、先生!」
「ただいま」
先生とピノコちゃんが三日月湾に出掛けてから、一ヶ月ほど。
ようやく二人が、家に帰ってきた。
一ヶ月振りの家が懐かしいのかな?
嬉しそうにソファに座ってお土産を出して広げるピノコちゃん。
そして先生はと言うと、荷物だけを置くとすぐに行こうとした。
「先生、ご飯は?」
「あー…いや、いい。二人で食べていてくれ」
「はい」
「ー、ピノコおなかちゅいちゃったのわよ!」
「うん。今あっためるね」
そう言って、リビングから出て行く先生の後姿を見送った。
何だかとても深刻そうな、難しい顔をしていたから
私は何も言えなくて。
ピノコちゃんに「、はやくーう!」と言われてハッと我に返り、
キッチンに行って用意しておいた料理の鍋に火をつけた。
「そぇれねー、タクシー運転手のおっちゃんてば・・・」
ご飯を頬張りながら楽しそうにピノコちゃんが話してくれる三ヵ月湾での出来事を、
私はどこか心ここにあらずで聞いていた。
先生…
先生は家に帰るなりすぐに部屋に篭ってしまった。
一応私達は“恋人”と呼ばれる関係にあるはず、なのに。
まるで私のことなんて、今は構ってられない…なんて、
そう思わざるを得ない、彼の行動。
別に、ずーっと構って欲しい、とか。
「君と離れていて、とても淋しかったよ」とか、
そんな台詞を言って欲しいんじゃなくて。
せめて…何て言うか、こう。
もう少しだけ、私を見て欲しかった。
もう少しだけ、あなたを見ていたかった。
「…?」
「あっうん、ちゃんと聞いてるよ!いいなぁ、私もテストじゃなきゃ行ったのに」
「ねぇ、ほんとは寂ちかったんれちょ?」
「え…―――――――――」
「の顔見てたらわかりゅもん。
…先生に会えなくて、寂ちくてたまんなかたくちぇに」
ピノコちゃんの鋭いその言葉に、私は胸を射抜かれたような気持ちになった。
平気な振りをしてても、本当は寂しかったから。
さっきだって引き止めて、抱き締めて欲しかったのが…本音。
「…先生とピノコね、三日月湾で月子ちゃん、て子に会ったよのさ」
「月子…ちゃん…?」
ピノコちゃんは唐突に、そう言った。
月子ちゃん、と。
それは紛れもなく、女の人の名前で。
私は心臓がビクン、と大きく飛び跳ねたのがわかった。
「月子ちゃんは公害のちぇいれ足がわゆかったんらったんらけろ…
そえれも一生懸命生きて、頑張ってた。
先生は月子ちゃんをシウツしたわのよ。
もちよんシウツは成功ちて、リハビイも順調だった…」
先生が三日月湾に行ったのは、三日月湾で発生した公害、三日月病の
原因究明・対策、三日月病救済委員会からお呼びが掛かったから。
月子ちゃん、と言うのは、そこで出会った患者さんなのだろうか?
「けろ、月子ちゃんはまら治いきってない足で海に出て…死んじゃった」
「――――そう…」
「青真珠」
「え――――――…」
「青真珠をとって、先生に渡すために」
青真珠―――――――その単語に、私は思わず息を飲んだ。
…昔、聞いた事があった。
青真珠を女の人がとって、好きな男の人に渡す。
そしてそれを受け取った男の人は、その女の人をお嫁さんにしなければならない…
三日月湾の、伝説だ。
月子ちゃんは、それを先生に渡すために、海に潜った。
私は笑っていたつもりだったけど、笑えていなかったかもしれない。
私の知らないところで、手の届かないところで…
先生が知らない女の人に、好意を持たれていたなんて。
それも伝説になぞらえた、純粋で迷いのない、想い。
「…先生はきっと、三日月病を完全に解明しきれなかったのが悔しいよのさ」
「――――…」
私は何も、言えなかった。
きっと先生がすぐに部屋に篭ってしまったのは、それだけじゃない。
病気の解明だけじゃなくて…月子ちゃんのことが、あるんだと――――――
そう感じた。
「ね、らから!」
「えっ!?」
「先生のとこに行って、慰ちゃめてほちいの」
「私…?」
「以外に、誰がいるよのさ!」
「そ、それは…」
ピノコちゃんがそう気を使って行ってくれたのにも関わらず、
私はすぐに返事を出来なかった。
正直今の私に…先生の傍に行く勇気は、なかったから。
あんなに思いつめた顔をしていた
あんなに考え込んだ顔をしていた
あの時の先生が、彼女のこと、病気のことを考えていたと思うと
胸が、苦しかった。
「…ね、行って」
「でも…」
「先生を元気付けてあげらえゆのは、だけなんよ!
っ…悔しいけろ、ピノコにはそこまえできない…」
「ピノコちゃん…」
「そぇに!はピノコがゆいいちゅ認めた先生のだいにふじんなんらから!」
「…っ、うん」
ピノコちゃんのその言葉が、私の背中を押した。
…先生の行動を待っているだけじゃ、始まらない。
私が一人で思い悩んでいるだけじゃ、何も変わらないから。
「…ありがとう、ピノコちゃん」
「先生のこと、お願いね」
「…できるだけ、頑張るね」
そう言って席を立つと、私はリビングを出て先生がいるであろう、
書斎に向かった。
to be continued...
えーと…OVAの「しずむ女」を前提としたお話です。
無駄に長い…後編に続きます(爆)。
月子ちゃんは嫌いじゃないですが、先生がめちゃめちゃ感情移入してたので
チョット切ないです(笑)。
二次元の人間に恋して、二次元の人間に嫉妬してりゃあ世話ないですねー。
果てしなくキモイわたし!
あああキモい管理人で済みません!!(死)
「しずむ女」は先生の入浴シーンが拝めるのでお勧めですv笑
05.07.19 Mia