「あ、これなんかいいかも」

「ちょっと地味じゃね?俺ならこっちのオレンジの方が―――――」

「あんたが着るんじゃなくて、先生が着るんだよ?」

「…だから誰だよ、先生って」
















恋する心
















今日何度目かのある単語に、男友達は溜息をつきながら眉を八の字にして私に問い掛けた。

ここは、繁華街のとあるファッションビル。

私がよく行くビル…なんだけど、今日は少し違う。

私がいるこのフロアはメンズ、つまり男ものを扱った店が集まったフロアだった。

…何で私が、こんなところにいるかと言うと。





「何で俺が、の彼氏の買い物に付き合わなきゃなんないんだよ」

「いいじゃん、どうせ暇なくせに」

「…それがわざわざ休みを潰して付き合ってくれた友人に言う言葉かっつの」





彼氏…つまり先生への、プレゼントを買うため!

友達にこつん、と軽く拳で殴られた頭を掻きながら、私はまた視線を

商品がきれいに陳列された棚に戻した。

夏物という事で、やっぱり明るめの色合いだったり薄めの生地のものが多い。

その中で私は既にピックアップしていた何着かの服を棚の上に広げて、

どれがいいかと悩んでいた。





「やっぱりこっちかなぁ…あ、でも先生ならあれも似合いそうだし…」





無視かよ、とかブツブツ隣で言ってる友達をよそに、腕を組みながら並べられた服を見比べる。

どれが一番、先生に似合うかなって。

…そりゃ、先生ならかっこいいし足長いし何着ても似合うんだろうけど…

折角贈り物をするんだから、一番先生“らしさ”が出る服にしたい。

とりあえず男物の服なんて買ったこともないし店にもあまり入ったことがないから、

適当に仲のいい男子に声をかけて選ぶのに付き合ってもらうことにしたんだけど。





「だからその先生って、どんな奴だよ?どんな服が似合いそうな雰囲気よ」

「えー?髪が白と黒、半々で」

「はぁ!?」

「すっごいかっこよくて」

「…惚気んな」

「孤独って言うより、孤高って感じ」

「全然イメージ湧かねぇー…」

「…」





駄目だ、人選ミス。

会ったこともない人のイメージを伝えるって難しい。

こんなんなら、最初から先生を知ってる和登ちゃんとか久美子に来てもらうべきだった。





「んじゃさ、何歳くらい?俺らと一緒?」

「歳…?」





…そう言えば、いくつなんだろう。

聞いたことないから、わかんないや。

帰ったら、聞いてみよう。





「んー、28歳とか、多分そこら辺」

「マジでか、10歳も違うじゃん。って年上趣味なんだ」

「変な言い方するなっつーの」





年上がどうこうじゃなくて…先生だから、好きになったんだから。

そんな事を内心思いながらも、とりあえず悩んでいた二着を広げて

友達に見せてどっちがいいか聞いてみた。





「…俺ならこっちが好きだけど、んー…」

「?」

「やっぱり、お前が選んだほうが良いんじゃねぇ?」

「…うーん…そっか、そうだよね」





あくまで彼は、アドバイスしかくれなかった。

最終的に選ぶのはやっぱオマエの方がいーじゃん、と言いながら。










「今日はありがとね、付き合ってくれて」

「別に良いって。あ、でも忘れんなよ?約束」

「わかってるって。明日の昼、食堂で好きなの奢りね」





30分後、私たちはビルの入り口の前に立っていた。

私の手には、さっきの店で買った服が入った紙袋がひとつ。

友達も自分で気に入った服があったみたいで、同じ袋を手に提げていた。





「それにしても、お前の彼氏幸せモンだな」

「…気に入ってくれたら良いんだけどね」





友達が笑いながら言った言葉に、私はちらりと横目で紙袋を見ながらそう言った。





「…自分の彼女が自分の為に選んでくれたんだぜ?誰だって、嬉しいだろ」

「…そっか」





友達のその言葉に、思わず顔が綻んだ。

そして少し不安だった心も、晴れてくる。





「じゃ、またな」

「…うん、また明日」





そう言って、友達は雑踏の中に足を踏み出した。

その背中が完全に人ごみの中に隠れてしまうのを見届けると、

私も家に帰るためにバス停の方へ向かった。





















「ただいまー」

?早かったな、連絡くれたら迎えに行ったのに」






それから約一時間後、家に着いた私を先生が迎えてくれた。

ピノコちゃんは出掛けているみたいで、家の中に姿はない。

先生は珍しくリビングで、寛いでいる。

ドアを開けて入ってきた私を見て微笑むと、おいでおいで、と手招きをした。

素直に従ってソファに座る先生の目の前まで行くと、急に手をぐいっと引かれる。

先生の顔がほんの数センチ先に見えた、と思ったら…次の瞬間には、キスをされていた。





「おかえり、

「…もう、先生ってば」





満足そうに笑う先生に顔を赤らめながら、私はそのままソファの空いていたスペースに腰を下ろした。






「先生、これ…」

「ん?」





そして私は、早速さっき買ったばかりの服が入った、少し大きめの紙袋を渡した。

何だろう、というような表情で渡された紙袋を手に取り、

先生は袋の口が開かないように留めてあるシールを破かずに器用に剥がして中のものを取り出した。





「これ、俺に…?」

「…気に入って、くれたらいいんだけど」





思ったより反応の少ない先生に、私は少し不安になって控えめにそう言った。

袋に入っていたのは、ダメージ加工のジーンズにきれいな青のTシャツ、

それに先生に似合いそうと思った小物やシャツが数点。

それらを手にとって数秒何も言わず見つめた後、先生は私の方を見た。





「ありがとう、すごく嬉しいよ」

「ほんと…っ?」

「ああ、本当に」





最初はその言葉を、疑った。

先生は優しいから、「こんなものいらない」と思ったとしても

きっと気を使ってそう言ってくれるだろうと思ったから。

だけど、そんな疑問は先生の表情を見た瞬間にすぐに消え失せてしまった。

…先生が、本当に嬉しそうに微笑っていたから。





「良かったぁ!」





私は思わず安心して、声を上げて先生に抱きついた。

そんな私を先生は器用に体と左腕で抱き止めて、そのまま抱き寄せてくれた。





「気に入ってくれるか、すっごい不安だったの」

が選んでくれたんだ、気に入らないわけないじゃないか」





相変わらず先生に抱き寄せられて、先生のシャツに顔を埋めていたままだったから

先生には気づかれなかったけれど…

さっき友達が言っていた通りのことを言われて、私は思わず微笑んだ。





「今日はこれを買うために、出掛けたのか?」

「うん、そう。でも私一人じゃよくわかんないから、クラスの友達に付き合ってもらったの」

「…男友達?そんなに仲が良いのか?」

「もう、そんなんじゃないって!」

「…妬けるな。と二人きりで、一日中いたなんて」





顔を上げると、そこには珍しく子供みたいに拗ねた顔をした先生がいた。

慌てて否定するけど、先生はそう一言呟くとぎゅっと強く私を抱きしめた。

少しだけ、鼓動が早く感じたのは気のせいかな?





「大丈夫、男物の…先生の服を選ぶのに、アドバイス貰っただけだから」

「本当に?本当にそれだけ?」

「本当に」

「そうか…」





その言葉を聞くと、先生は安心したように私を抱きしめていた腕の力を少し緩める。

本当に?って不安げな声で何度も訊く先生が可愛くって、

私は思わず先生の背中に回していた腕でぽんぽん、と子供をあやすように軽く先生の背中を叩いた。





「もー、私ってそんなに信用ないかなぁ?」

「別にそういうわけじゃない…ただ、を誰かに取られてしまうのが怖いだけだ」

「先生…」

「駄目だな、の事となると…臆病になっちまう。どうしてだろうな?」





先生がそんな事を言うなんてすごく意外で、それと同時にすごく嬉しかった。

だってそんな気持ちになるのは、私だけだと思ってたから。

不安で心許なくて臆病なこの心は、私だけじゃない。

…多分「恋」をしている人は、皆持ってるんだ。

嬉しくて楽しくて、ドキドキした毎日。

そんな毎日が大きいほどそれがずっと続けばいいって思って、今度はそれが壊れたらどうしようって不安になる。

そんなに言い切れるほどの人生経験なんてこれっぽっちも積んでないけど、そう思った。





「…どうしてだろ、こんなに幸せなのにね」





人間は懐疑的な生き物で。

そして物事に「おわり」がある事を知っていて。

結局みんな、臆病だ。





「…んっ…」





そう頭の中で考えた時、急に息ができなくなった。

目の前の大切な人に、キスで唇を塞がれたから。





「…もう、いきなりキスする、普通?」

「答えが出ないときは、こうするのが一番だ」





少し恨めしげに先生の顔を見上げると、先生は「してやったり」の表情でそう言った。

…でもたしかに、そうかもしれない。

キスをしているときだけは、そんな事どうでも良くなっちゃうから。

好きで好きで仕方ないって感情だけで、心が埋め尽くされる。





「…さて、出掛けようか。ピノコがいない内にね。着替えてくるから少し待っててくれ」

「えっ、これから?」

「勿論。行き先は任せるから、考えてて」

「…りょーかい」





ふっと笑って私の頭を撫でると、ソファから立ち上がって先生はリビングを後にする。

先生の口から出たのは、お出かけのお誘い!

さっき縮こまった臆病な心が、一気に跳ね上がった。

だから恋って、楽しいんだ。

私がさっき渡した紙袋を持っていくあたり、私がプレゼントした服を早速着てくれるらしい。

思いがけない夕闇デート。

どこに行こうかなぁ…と考えながら、私はその姿を見送った。

先生が私が選んだ服を着て出てくるまで、あと数分。

思いっきりどきどきしながら、待ってるね。










fin.

久々BJ先生夢。恋する心と書いて恋するハートと読んでください(嘘)

いつも通り(笑)、途中まで書きかけで放置ングだったやつを頑張って完成させました。

先生に色んな服着せてみたいです。

わたしセンスないけど。

先生になら貢いでもいいです。(真顔)


060807_Mia Fujiwara