「もう先生なんか知らないっ!!」
「勝手にしろ、こっちだってもう知らん!」
愛 し て い る と 言 っ て く れ
とブラック・ジャックが珍しく派手な喧嘩をしたのが、三日前。
些細な事で意見が食い違い、最後には見事なまでの言い争いにまで発展してしまったのだった。
そして最後に、もう知らない、と会話を切って乱暴にリビングのドアを開け、出て行く。
そんな彼女に見向きもせず、フン!と真逆の方に顔を向けるブラック・ジャック。
こうして約一時間に及ぶ喧嘩は幕を閉じ、終わったように思えた。
・・・が。
「ねぇ、も〜そよそよ先生としゃべったらどうよのさ」
「知らないもーん、あんな人」
「〜っ!!」
「先生、意地張ってないれと仲直りちてよ?」
「知らん。それに意地なんて張ってないぞ、俺は」
「んもう、先生まで!」
「「俺は(私は)悪くないっ!!」」
「・・・ハァ」
「どうしたの?ピノコちゃん。盛大に溜息なんてついちゃって」
いつも行きつけの喫茶店のカウンターに座り、頬杖をついて憂鬱そうな溜息をつくピノコ。
そんな彼女を見て、この喫茶店の看板娘・久美子は不思議そうに声をかけた。
かなりピノコは悩んでいる、というか参っている様子。
目の前の“ピノコスペシャル”と名づけられた大きなパフェを前にしても、その憂いは
晴れないようだった。
「・・・あえよ、あえ」
「?・・・と、ブラック・ジャック先生?」
ピノコが視線で示した先には・・・同じくカウンターに座る、とブラック・ジャックの姿。
いつも三人でこの店を訪れているので、それはいつもと変わらない状況なのだが・・・
ただいつもと違うのは、隣り合って座りながらも不機嫌そうな顔で全く逆の方向を見て、
一言も言葉を交わさない事だった。
「・・・まだ喧嘩、してたんだ」
苦笑いを浮かべながら、カウンターの向こうからそんな二人を見つめる久美子。
まだ喧嘩していたのかと、そう呟いたのは、数日前にやけに学校で不機嫌だったに
理由を尋ねた久美子が、「先生と喧嘩した」と聞いていたからだった。
あの日の彼女はかなり荒れていて、授業の間だって深く何か考え込んでいるような様子だった。
翌日は彼女の機嫌も大分治まっていたので、まさか今日まで続いているとは思わなかった。
「確かあれが、先週の月曜日だったから・・・」
「・・・ちょうど今日で、一週間よのさ」
「一週間も・・・」
一週間。
一週間もの間、とブラック・ジャックは一度も話さず、
目さえもまともに合わせていなかったのだった。
そう声に出すと一層悲しくなったのか、ピノコはカウンターに突っ伏してしまった。
そんなピノコを見て、慌てて元気を出すように声をかける久美子。
「ちゃんも案外、頑固だからねぇ」と、マスターは苦笑いを浮かべている。
しかしそんな三人をよそに、相変わらず言葉を交わす気配も無いとブラック・ジャック。
は文庫本を、ブラック・ジャックは新聞を手に、マスターの淹れたコーヒーを啜っている。
「じゃ久美子、マスター、私もう行くね」
「あれ、、一人で帰るの?」
と、が席を立った。
文庫本を鞄にしまい、服を整える。
喧嘩はしていてもブラック・ジャックの車で一緒に帰るのだろうと思っていた久美子は、
不思議そうにそう声をかけた。
「そっ、これから合コン行くの」
「えっ・・・ごっ、合コン!?」
「そっ。今日の相手グループは東大の法学部だってー!あー、楽しみだなぁ!」
合コン・・・のその言葉に、それまで無言で我関せずを通していたブラック・ジャックも
思わず息を呑み、彼女の方を振り返った。
そんな彼に気付いているのか気付いていないのか、は楽しそうな表情で話を続けた。
「ちょ、待ってよ!」
「ごめんねピノコちゃん、って事で今日私夕飯いらないから!お代ここに置いとくね、マスター。
、張り切って行ってきまーす!・・・じゃ」
ピノコの引きとめも虚しく、からんからん、と入り口のドアに掛けられた鐘が揺れ、
は店から出て行った。
そして店内に残されたブラック・ジャック、ピノコ、久美子、マスターは
何も言えず、彼女が出て行ったドアをただ見つめていた。
「まちゃか、がごーこんならんて・・・先生!」
「・・・何だ」
「、連えもろちてきてよ!っ・・・なんれそんなに意地っぱりなのよさ〜!!」
そう言うや否や、うわぁーん、と、そのまま大きな声を上げて泣き出してしまうピノコ。
いつまでたっても仲直りしなかった二人が今日に至り、ついにが
合コンなどに出掛けてしまった事が、よっぽどショックだったらしい。
「ピノコ」
「!」
「・・・帰るぞ」
そう言うと、ブラック・ジャックは席を立った。
ピノコの期待も虚しく、ブラック・ジャックの口から発せられた言葉は「帰る」その一言。
マスターに自分のコーヒーとピノコのパフェ代を払うと、がっくりするピノコを連れて店を出る。
そして車に乗り込むと、少し・・・と言ってもほとんど気付かないくらいだが、いつもよりも
荒っぽくハンドルを切り、自宅へと戻ったのだった。
(くそ・・・何でこんなに、苛々するんだ)
そして彼は、これ以上ないという程に不機嫌な一日を過ごす。
たまたまこの日癌の手術を依頼しに来た運の悪い患者は、五億円もふっかけられたと言う。
そして夜になってからも彼の脳裏に浮かぶのは、の事だけだった。
リビングのソファに座り、と一緒に暮らすようになってからは滅多に吸わなくなっていた
煙草に火を付ける。
しばらくしてその煙が肺を満たし、若干だが心が落ち着くのを感じた。
「・・・じゃ」
そう言った彼女の視線は、間違いなく自分に向けられていた。
じゃ?
じゃ、何だ?
彼の胸を、言い知れない不安がよぎる。
これだけの間冷戦を続けていたとしても、やはりを好きである事には変わりは無い。
ただ少し、折れるタイミングを逃していただけなのに。
いつのまにか一週間もの日が過ぎ、彼女と言葉さえも交わしていなかった。
今日出掛けていった場所で、彼女は自分に代わる誰かを・・・見つけてくるのだろうか。
ブラック・ジャックは苛立たしげに、もう半分以下の長さになっていた煙草をぐしゃりと灰皿に押し付けると、
右手で拳を作りソファを殴りつけたのだった。
・・・その時。
「・・・」
「!・・・」
ガチャ、とドアが開く音がして、ミアが帰ってきた。
夜10時。
普通ならこれから二次会三次会へと、向かう時間だろう。
思ったよりも早い帰宅だ。
「・・・早かったな」
「・・・先生には、関係ないでしょ」
「・・・」
「・・・」
ようやく交わした一週間ぶりの言葉にも、は素っ気無く返す。
本当は心に浮かぶ事はたくさんあったのだが、お互いに何も言えずにいた。
「で、東大法学部はどうだった?いい男は見つかったかい?」
「ッ!!」
気まずい沈黙を先に破ったのは、ブラック・ジャックだった。
皮肉な笑みを浮かべ、心に思っている事とは正反対の台詞を口にした。
そんなブラック・ジャックの言葉には一瞬表情を引き攣らせ、それからすぐに視線を逸らした。
「・・・何よ、人の気も知らないで!!」
「なッ・・・それはこっちの台詞だろうが!
楽しかったか?大学生との合コンは!てっきり明日まで帰らないのかと思っていたぜ」
「そんなの・・・見つかるわけないじゃない!
っ・・・先生の事が、一番好きなのに!!」
「っ・・・・・・!?」
ついに出た彼女の本音に、ブラック・ジャックは思わず目を見開いた。
もう終わってしまうのかと、思いかけていた彼女との関係。
・・・だがそれは、違っていた。
「っ・・・」
「・・・済まなかった、・・・」
「えっ・・・?」
気付けばブラック・ジャックは、を抱きしめていた。
その突然の彼の行動をは理解しきれず、今度は逆に彼女が驚き目を見開いた。
ただ感じるのは、一週間ぶりのブラック・ジャックの腕の温かさ。
緊張しきっていた心が、一気に溶けていくのがわかった。
「・・・くだらない意地を張っていた。
俺がバカだったよ、済まない・・・許して、くれないか・・・?」
「先生・・・!!違う、謝るのは私だよ!ごめん、ごめんなさい・・・!!
ほんとはもっと早く謝りたかった・・・けど、タイミングが、見つからなくて・・・」
そう耳元で呟くブラック・ジャックに、は胸の中に溜まっていた言葉をようやく口に出し、
涙を流してブラック・ジャックの背中に腕を伸ばした。
ブラック・ジャックはそんな彼女を、きつくきつく抱き締める。
を落ち着かせるように、そしてまた、自分も落ち着かせるように。
彼女の感触をしっかりと確かめ、大きく息を吸い込んだ。
「たくさんひどい事言って、ごめんね・・・?
向き合おうともしなくて、ごめんね・・・?」
「いや、それは俺だ・・・済まない、に・・・辛い思いをさせた」
そして自然に、二人の唇が重なった。
一度柔らかい感触を楽しむと、それからすぐにまた唇を重ね、今度はお互いを貪り合う。
こうしてようやく、二人の冷戦は終りを迎えた。
「っはぁっ、先生、先生ぇっ・・・!」
「っ、・・・」
「ふ、あ・・・はぁんっ・・・イイ、よぉっ・・・」
白いシーツの上に乱れる、の身体。
そんな彼女の中にブラック・ジャックは入り込み、お互いの愛情を確かめ合う・・・一週間ぶりの行為。
一度頂点を迎えても、二人は何度も何度も、求め合った。
「なぁ、・・・?」
「っ・・・どうしたの、先生・・・?」
まだ繋がったまま、息も整っていない時に、ブラック・ジャックがふとに呼びかけた。
は行為によってかいた汗で肌を濡らし頬を高潮させ、その姿がまた彼の劣情を呼び起こす。
「愛していると、言ってくれないか・・・?」
「え・・・?」
ブラック・ジャックが、小さく呟いた言葉。
真っ直ぐにの目を見つめ、真剣な面持ちでそう言った。
それは紛れもなく、の愛情を確かめる言葉。
それを彼は身体を重ねても尚、欲した。
「・・・愛してる、先生」
ブラック・ジャックにふわり、と微笑み、そう言う。
そしてすぐに彼の身体に寄り添い、更に言葉を続けた。
「愛してる・・・愛してる、世界で一番、愛してるよ・・・!!」
言葉にするにつれて、その思いは、ますます強くなった。
愛している、という感情。
もう二度と離れたくない、という感情。
そんな感情が爆発しそうになるのを、はブラック・ジャックに強く
抱きつくことで精一杯抑えたのだった。
「・・・ありがとう、・・・」
そしてのその言葉に、本当に嬉しそうな、安心したような声音で礼を言うブラック・ジャック。
彼もまた彼女をしっかりと抱き締める事で、溢れ出しそうな感情を、理性を、繋ぎ止めているようだった。
・・・そして二人はまた、口づけを交わした。
「先生も・・・聞かせて?お願い・・・」
「ああ、愛してる・・・」
fin.
55555hit代理キリリク金平糖★さまに捧げます。
久美子ちゃん&マスター登場でちょっとアニメ設定交じりです。
アアア何か本当に済みませんでした…「冷戦」というかもう思っきし「喧嘩」に
なってしまった…。
喧嘩の理由は、皆様のご想像にお任せします。
(プリンを食べられたでも良し、キリコと仲良くしすぎだでも良し、人妻に言い寄られすぎだでも良し(笑))
っていうか先生別人過ぎ!!(泣)
書いていくにつれて、「誰だこの人…」状態でした(ノД`);"。.+:*
喧嘩モノってあまり書かないのですが、今回書いてみて「あ、案外イイかも」とか思いました(笑)。
子供っぽい意地の張り合いが好きです。(どんなだ
何はともあれ、55555hit有難う御座いました!!
これからもどうか、宜しくお願い致します。
05.05.28 Mia。