ユリからその話を聞いた時は、顎が外れるかと思った。


ちゃんがブラック・ジャック先生と、結婚したんですって」


…ユリの毒舌は昔からの事だったが、今回だけは本当に…

悪い冗談はよしてくれ、と。

本気で心から、そう思った。


“あの”ブラック・ジャックが、結婚?

とか言う、居候の小娘と?

おいおい、マジかよ。

冗談だろ。

今日はアレか?エイプリルフールだったか?


あッ…有り得ぇええ――――――――ッ!!















キ リ コ 襲 来 〜 死 神 の 悪 夢 〜















「ブラック・ジャック!!」

「なんだキリコ…騒々しい。

 …お前、今日はユリさんと一緒(パシリ)じゃないのか?」





バタンッ、と大きな音を立てて、俺は忌々しいブラック・ジャックの家のドアを開けた。

ノックくらいしろ、と言いながら顔をしかめて、チラリと俺を見るブラック・ジャック。

だが今は、そんな事は構いやしない。

いや、普段だって構わないけどな。





「おまっ…ブラック・ジャック!!」

「何なんだ、一体。顔がいつも以上に青いぞ」

「けっけけけけけけけ、結婚したって!?」





上手く呂律が回らなかったがもういい、とにかく…とにかくだ。

俺はブラック・ジャックの胸倉を引っ掴み、ユリから聞いた言葉の真相を確かめるべく

単刀直入に問い質した。


…頼む、頼むから嘘だと言ってくれブラック・ジャック。

ブラック・ジャックの返事を待ちながら、俺は体中から血の気が引いていくような、そんな感覚がした。





「…」

「何…?」





ブラック・ジャックの唇が動く。

その返事に、その言葉に俺は思わず聞き返した。

今…何つった!?





「だから、本当だと言っているだろう」





…目の前がリアルに暗くなったような、気がした。





「本当?」

「ああ」

「つまりそれは、肯定の言葉か」

「そうだろう、普通」

「その肯定ってのは…」

と俺が結婚した事に対しての、だろう」





まさか。

まさかこいつに限って、結婚なんて。

嘘だろ、と思わず言いかけた言葉を飲み込んで、俺はとりあえず落ち着こうと手近なソファに腰を下ろした。





「何をそんなに驚くんだ、キリコ」

「いや…だっておまえ…」





別に誰と誰が結婚しようが、俺には関係ないし気にもならない。

だが、今結婚したと言うのは…目の前にいる、ブラック・ジャックだ。

色んな意味で頭痛のしそうな現実に、俺は深々と溜息をつき、額に手を当てた。





「無免許医療、銃刀法違反、青少年健全育成条例違反っつーかロリコン、マザコン…

 法律違反・法律無視を地で行くようなお前が、結婚?」

「…最後の方は丸っきり関係ないような気がするんだが?」





冗談はよしてくれ。

寝言は寝てから言ってくれ。

今ほど、この言葉を何度も奥歯の奥で噛み締めた日はなかった。





「とにかく…天才悪徳無免許外科医と名高いおまえさんが結婚とは、考えられないぜ」

「放っておけ。おまえさんには関係ないだろうが」

「―――――どうしてまた、結婚なんてした?

 おまえが自分から法律に縛られに行くなんて、本当にどうしちまったんだよ」

「―――――――――――…俺だって、色々考えたさ」





フッと笑い、肘を膝の上に置いて両手を顔の前で組んでから、

遠くを見るような目で語り出すブラック・ジャック。

…オイオイオイオイ、キャラ違わねェエエエ!!!????





と共に一生を過ごすのは、もうずっと前から決めていたがな。

 どういう状態で一緒にいるのか…それが一番、悩んだよ」

「…」





もうコイツ俺の存在すら忘れてんじゃねぇのかってくらいに

それは穏やかに、ブラック・ジャックは小娘との結婚のいきさつを語る。

俺は未だにそんなブラック・ジャックが信じられなくて、間抜けにも

ぽかんと口を開けたままただそれを黙って見ていた。





「確かに法や何かに、縛られるのは好きじゃない。

 このまま籍も入れないまま、この家で一緒に暮らしても良かったんだがな」





ああ、最近フランスとかヨーロッパのカップルでよくあるケースね。





「だが子供が生まれた場合…日本じゃまだ制度とかも整ってないし、

 手続きとかが厄介になるかもしれないだろ」





そこまで考えてたとは恐れ入ったぜ、ブラック・ジャック。

さしずめ明るい家族計画、って所か?





「それに俺にもし何かあっても、結婚していれば財産や何か…

 つまり俺がに残してやれる全てを、面倒な遺言状なんかなくたってあいつにそのままやれるしな」





万一の時の事まで考えてるたぁ、さすがブラック・ジャック先生だな。





「―――――――――――ま、結局はどうしたら一番を幸せにしてやれるか、

 ってのを一番重要に考えて、決めたんだ。

 ………ってオイ、折角俺が真面目に話してるのに聞いてるのか?キリコ?」

「…お………おう…………」





寒気がする。どうしてだろう。

今はまだ、暖炉の火もコートも、必要な時期ではないはずだ。

…世間一般では、こいつが喋っていた全ての事を惚気と言うのか!?そうかこれが惚気か!?

……ああもう、世の中全部どうでも良くなってきたぜ…

結婚だろうと郵政民営化だろうと何だろうと、好きにしやがれ………。





「ま、おまえには一生わからんだろうがな」





最後に、ブラック・ジャックは俺を見下したような哀れんだような…そんな言い方で締めくくった。

俺には一生わからない。

そうか、俺にはわからないのか。

…いや、一生わからなくったっていい。





「それで?おまえ結局何しに来たんだ。まさかわざわざそれだけを確かめに?」

「あ、いや…」



「たらいまよのさー!」

「ただいまー」



!」

「!!」





その時だった。

玄関が空いた音がすると、ドアの向こうから、声が聞こえた。

幼女と、小娘…いや、今じゃもう“ブラック・ジャック夫人”、の声だった。





「お帰り、ピノコ…大丈夫だったか?」

「もう、大丈夫だって。心配性なんだから、先生」





するとそれまで俺の前のソファに座っていたブラック・ジャックがサッと立ち上がり、

ドアを開けて迎えに出る。

俺はどうするでもなく、ソファに座ったままだ。

玄関の廊下とリビングとを隔てるドア越しに、小娘を心配するブラック・ジャックと

それに笑って答える、小娘の声が聞こえた。





「大丈夫だって…もう、おまえさん一人の身体じゃないんだぞ?」

「うん…でも、たまには外に出ないと身体に毒だし!それにピノコちゃんも一緒だし、ね?」

「そうよのさ!ピノコがちゃーんと、ついてゆんらから」





おまえ一人の身体じゃない…もう身体も心も、俺のものってわけかブラック・ジャック?

たまには、外に…?

おまえ、一体どんだけ独占してんだよ…家からも出してないってのか!?


…そんな事を心の中で叫ぶ俺をよそに、ドアの向こうの足音は近づいてくる。

三つの足音が、すぐ近くで止まったかと思うとドアがギィ、と音を立てながら開いた。


そして、次の瞬間。

俺の目には、とんでもないものが飛び込んできた。

前言撤回。

俺は今ほど、冗談はよしてくれ…そう思った事は、なかった。





っ…なァアにィイイ―――――――!!??????

「あ、キリコさん。来てたんだ」

「五月蝿いキリコ、大きな声を出すな。赤ん坊に悪影響だ」





ドアの向こうから顔を覗かせた小娘。

それはいつもと何ら変わりはない。

…だが、だが!!





「そっそっそ、その腹……腹は………」

「見ての通りだろう」

「今月で、9ヶ月なんですv」





嘘だ。

俺は今目にしたばかりのモノを、今すぐに抹消してしまいたかった。

嘘だ。

その言葉だけが、俺の頭の中で延々と渦を巻いて回っていた。





「にっ…妊娠してるのか!?」

「それ以外になにがある?」





白のワンピースに身を包んだ小娘の腹が、膨らんでいた。

9ヶ月…ああ、もうそろそろ臨月ですね…おめでとうございま…………

って、そうじゃないだろうがァアアア!!!!





「ブラック・ジャック、おまえという男は!!」

「なんだ」

「年端もいかない小娘を孕ませちまったから結婚か!?最低だな、貴様!!」





アレか、最近流行りの出来ちゃった婚とかいうヤツか。

もう少し…あと0.00001ミリ程マトモな奴かと思っていたが、これじゃあその辺のガキと一緒じゃねぇか!!





「失礼だな。俺はちゃんと計画してヤったんだぞ

余計タチが悪いわァアア!!





顔を赤らめて微笑む小娘の肩を右腕で抱き、

左の手では奴の子が宿っている小娘の腹を愛おしむように撫でながら、

ブラック・ジャックは特に大したことでもないかのようにしれっとした感じで言う。

計画的犯行か、オイコラブラック・ジャック。

まさに開いた口が塞がらないとは、この事だ。

俺は幸せそうに肩を並べるブラック・ジャックと小娘、そして臨月間近の腹を順番に何度も見ながら、

ただただ呆然とするしかなかった。





「ちょっと、こよしやのれきそこないのおっさん!!

 にあんまり近寄らないれよねーっ!!

 のお腹には、ピノコのいもーとかおとーとになゆ大事な大事な子がいるんらから!」

「そうだピノコ、もっと言ってやれ」

「もう先生、失礼でしょ」

が気にする事じゃないさ、どうせキリコだ」

「どうせって、だって一応私先生の奥さんだし…あっ、お茶淹れてくるね」

「良いから、。それよりも休んでいなさい。

 俺をあまり心配させないでくれよ?…」

「先生…」

「名前で呼ぶって、約束したろ?」

「あ…うん…黒男、さん…」

…」





寒い。

寒い寒い寒い。

俺は先程以上に鳥肌を立てながら、目の前で延々と繰り返される

天敵新婚夫婦のいちゃつきとやらを見せられ、ただ立ち尽くす。

ただ二人で寄り添っているだけなのに、ピンク色のハートが飛び交っているように見えるのは何故だろう。

ああこら、そんな所で抱き締めるな。

キスをするな。

それ以上甘い言葉を吐くなァアア!!!!!!


ああ、眩暈がする。

本当に勘弁してくれ。

…俺の精神はもう、本当に限界だった。

頼むよ…俺が何かしたのなら謝るから!!


誰か…誰か止めてくれェエ―――――――――ッッッ!!!!!!!















「…という、夢を見たんだが」

「…ハァ?」





俺がすべて話し終わる頃には、目の前に顔をつき合わせて座るブラック・ジャックは

呆れた様な表情をしていた。


ここはブラック・ジャックの自宅兼診療所。

俺の天敵、目の上のたんこぶ、商売敵…とにかく俺から見た場合色んな肩書きを持つ男、

ブラック・ジャックのホームだ。

つまり俺にとってはアウェー。

本来ならば、こんな所頼まれても寄り付きたくないが…(ユリにあの小娘に会いに行くから遅れ、と脅され頼まれたら別だが)

今日だけは、俺の意思でここへ来た。

今朝方見た、本当に寝覚めの悪い夢の事を話すために。





「わざわざそれだけの為に、ここに?」

「ああ」

「…馬鹿か、おまえ」





たかが夢で、と言われればそれまでだが、今日見た夢だけは本当に…確認せずにはいられなかった。

何十年生きてきて、あれ程恐ろしい夢は見たことがなかったぞ!?

…朝起きたら寝間着が汗でびしょ濡れだった。

ちなみに、相当うなされていたらしい。

朝起きたらユリに、「寝言が五月蝿いったらありゃしないのよ、にいさん!!」と殴られたから。





「で、まさかおまえ…してないよな?

「は?」

「だからしてないよな?結婚」

「…まだ、してないが」

「…?」





何かを含んだような物言いに、俺は眉を片方上げながらブラック・ジャックの方を見る。

…なんだか今日のこいつが、少し上機嫌に見えるのは気のせいだろうか。





「ま、どうなるかはわからないがな?…近い内に現実になるかもしれないぜ?」

「なっ…おまえ、どういう事だ!?」



「たらいまよのさー!」

「ただいまー」



!」

「!!」





ただいま…その一言に、俺はぎくりとした。

だってそれは…今朝見た夢と、前振りは違えども、とてつもなく似通った展開だったから。


まさか…まさか、な。

そう思いながら、俺はとりあえず自分を落ち着かせるようにソファに深く座り直した。

足音が一歩、また一歩と近づいてくる。

幸か不幸か、話し声は窓を叩く強い風のせいで聞こえない。

…そして、足音がすぐ近くで止まる。


もう数秒もしないうちに、奴らは部屋の中に入ってくるだろう。

どうか現実まで、夢に飲み込まれてしまっていませんように。


………もしまかり間違って夢の通りになっていたら、俺は出産祝いとか結婚祝いとかをやるべきだろうか。

いや、必要ないな。ブラック・ジャックだし。

とにかく、そんな事は杞憂で終わってくれると良いんだが…


俺は夢と同様にギィ、と音を立てながら開かれる扉に、じっと目を凝らした。



ああ、神様仏様…俺はまだ、ショック死はしたくない。















fin.


キリコシリーズ久々です!!

ギャー誰!誰この人ォオ…!!(滝汗)キャラ違うのはあんただー!!!(爆)

…いやほんと、スミマセンでした…orz

一人称で書くと、特にキリコは180度キャラが転換してしまって申し訳ないです…。

書いてる内は楽しいんだけどなぁ…

とりあえず、夢オチかよ!!って突っ込みはナシでお願いします(笑)。

夢だったからこそ、先生もちょっと壊れ気味…

某小沢さん並に甘い言葉を吐かせようと努力しました。(そして撃沈しました。)

すべてキリコの夢です。妄想です。気にしないでください。

ラストのオチ、そしてキリコが何故に先生とさんの結婚話を聞いて焦ったのかは御想像にお任せします。

vBJ←キリコでも、BJv←キリコでも、お好きなように(笑/オーイ!!)。

ああそれにしてもウチのキリコは壊れすぎ…!!

某空知と某うすたを足して2で割ったくらいのギャグテイストが好きです。(どんなんだ…w)


05.09.21 Mia