C L E A R B L U E
「あー…おはよう、キリコ」
「おう」
くしゃくしゃと頭を掻いて、私は遠慮なしの大欠伸をしながらベッドから起き上がった。
体が重い。
ベッドの周りには、脱ぎ散らかされた二人分の服が落ちている。
私の隣で眠っていたキリコは目が覚めて一番に、近くのサイドテーブルに置いてあった
煙草を手に取って火をつけると、白い煙を一気に吐き出した。
私はシーツで体を包み、それがずり落ちないように右手を胸の前に持ってきて押さえつける。
ふと胸元に目をやれば、其処ら中に赤い華が散っていた。
「いー朝デスネェ、キリコさん」
「何の嫌味だ、そりゃ」
必死に手を伸ばしてカーテンを開け、朝日の眩しさに目を細めながらそう言うと、
キリコは咥えていた煙草を右手で持って口から離し、ベッドの逆側から視線だけ
こっちに寄越してそう答えた。
…別に、セックスが嫌いとかじゃないんだけど。
次の日に身体に残す倦怠感はどうにも拭えない。
だからセックスの次の日の朝は、機嫌が悪い。
それを知っているキリコは、私の言葉とは正反対の意味を見抜いてそう言った。
「いやぁ、キリコはイイ顔してるなーと思って」
「…そりゃぁな」
…すっきりした顔しちゃってさ。
相変わらずキリコは煙草の煙を燻らせている。
視線はもう、窓の向こう。
「…そういえば…さ、キリコ」
「ああ?」
不意に名前を呼ばれて、キリコは再び視線を私に戻した。
窓の外を眺めるキリコを見て、私はある事を思い出した。
「眼帯、さ…
寝る時くらい、外したら?」
私の言葉に、キリコはすぐには答えを返さなかった。
否、返す言葉を考えてるようにも思えた。
――――――――初めて会った時からずっと、彼の左目を隠していた眼帯。
彼を象徴するような“それ”は、お風呂に入る時も眠る時でさえも、
私は彼がそれを外している姿を見た事がなかった。
一緒に居るようになってから、それなりの時間は経っている。
だけど私は、一度もその下の彼も、その理由も訊いた事がなかった。
「…やめとけ、女が見るようなモンじゃない」
「…怖くないよ?」
キリコが紛争地域で医者をしてたのは知ってる。
身体のあちこちに残る古い傷跡にだって、気付いていないわけじゃなかった。
だけど、その傷の理由は知らない。
「…何で」
「――――――――…?」
「ねぇ、厭?」
キリコは何も言わなかった。
何も言わずに、私を見る。
…そして私は、キリコの顔に手を伸ばして
その右頬に、触れた
「…」
彼は、私の名前を呼ぶ。
色素のほとんどない、長い銀の髪が少し垂れて
彼の瞳と私の間でゆらゆらと揺れていた。
そこから覗く隠されていない彼の右目には、私が映っている。
…その目は、咎めるようでも拒否するようでもなく、ただ黙って私を見つめている。
「―――――――――――…」
私は何も、言わなかった。
そして何も言わないまま、キリコの頬に副えられていた右手を上に上にと移動させ
彼の左目を閉ざす、眼帯に 触れた。
いつの間にか私は、キリコの足の間に膝立ちになるような体勢になっていた。
互いの目を見つめたまま、時間が過ぎる。
そして私はついに…眼帯を、外した。
眼帯をキリコの目からずらして外すと
ふぁさ、と軽い音がしてキリコの髪が揺れた。
「――――――――――――」
それは、思わず目を背けてしまいそうな酷い傷跡。
「…だから言ったじゃ」
「すき」
何も言わない私に、キリコはやっぱりというような声音で言いながら
ベッドの上に落ちた眼帯を拾おうとした。
だけど、私はそれを遮った。
「――――――っ?」
「すきよ、キリコ」
それから私は、キリコに口付けた。
キス、キス、キス
唇に、頬に、額に、左目に。
何度も何度も、口付けて
キリコは少しくすぐったそうに、だけど黙ってそれを受け入れた
「…変な奴だ」
「…?」
「俺が今まで会った女の中で、一番変だ」
微かに口元に弧を描いたキリコが、
膝立ちで自分の目の前にいる右目で真っ直ぐ私を見上げて そう言った
「…それでも」
「あ?」
「私は、キリコが好きよ」
そう 私はキリコが好き
だから、何度でも言うよ
「…好き」
「…馬鹿女」
「うるさい―――――――――っ、何」
ぎし、とベッドが軋んで
私がはキリコに押し倒された
顔にかかるキリコの長い髪がくすぐったい。
「お前がそんな事言うから悪い。
――――――――――…責任取れ」
見上げたキリコは、微かに笑っていた。
その顔が近づいてきて、今度はキリコからキスをされて
朝だと言うのにそのまま体を重ねた。
キリコの肩越しに見えた空は、見た事もないような澄んだ青だった。
fin.
たまには真面目なキリコさん。
いや、本来はもっとカッコイイはずだよキリコは!!
とりあえず眼帯ネタはずーっとやりたかったので満足。
眼帯の下が一体どんな傷なのか、すっごい考えました。
個人的には某カカシ先生スタイル希望。
まぁそんなこんなでキリコも大好きだー!な管理人です。
映画が楽しみ…(*´∀`*)
05.10.08 Mia