10月XX日、深夜。
ブラック・ジャックは、苦悩していた。
あ る 天 才 外 科 医 の 苦 悩
「…。」
ブラック・ジャックは深夜過ぎまで眠れず、一人悶々とした夜を過ごしていた。
夏の暑さはとうに過ぎ去ったし、冬の寒さもまだやって来るには早い。
それなのに何故、彼が眠れぬ夜を過ごしていたのかと言うと…。
「…」
彼の眼下には、愛しい恋人の姿。
時折部屋にやって来ては自分のベッドに潜り込む彼女。
が、自分の腕を枕にしてすぅすぅと穏やかな寝息を立てて眠っているのだ。
(まったく、無防備さにも程があるぜ―――――――…)
ふぅ、と無意識の内にブラック・ジャックは溜息をつく。
の可愛らしい寝顔を見ているのは好きだし心も安らぐが、
だがどうにも夜にそれを間近で見せつけられると、心中穏やかではない。
天才的な外科医として名を馳せ、集中力も冷静な判断力も完璧に備え持っているブラック・ジャック。
だが彼も、愛しい彼女を前にするとただの男。
のパジャマの首元から覗く白い肌、薄く開いた唇、柔らかな髪から香るシャンプーの匂い――――――
…すべてが彼を、誘惑する。
「せめてもう少し、離れられれば我慢も出来るんだがな…」
ぴったりと寄り添って眠るのは、がベッドに潜り込んで来るようになってから
もうお決まりの事だった。
そして彼女は「おやすみ、先生」と言ってから、
ちゅっと音を立ててブラック・ジャックの頬に唇を寄せ、瞳を閉じる。
それからが、彼の戦いだ。
「…ん…」
「…………」
が少しでも身じろぐ度に、ブラック・ジャックの心臓は跳ね上がる。
どうしたのかと気になって彼女を見るが、体の角度を変える為に動いただけのようで
すぐに安心する。
それから少し乱れた掛け布を直してやり、改めての寝顔を見る。
いつも楽しげに世界を見ているその目は、今は閉じられていて。
閉じた瞼を飾る長い睫毛が、ブラック・ジャックをドキッとさせた。
そこから下に視線を落として辿っていくと、薄く開いたの唇に出会う。
薄い桃色のその唇はとても柔らかそうで、思わず触りたくなる。
そしてその下には、上のボタンが一つ肌蹴ているパジャマ。
肌蹴た合間から、白い肌が覗いている。
(〜〜〜〜〜ッ!!)
そんな視覚的刺激から逃れようと、ブラック・ジャックはぎゅっと目を瞑った。
目に入っていた彼を誘惑するものはすべて暗闇に紛れ、見えなくなる。
…だが、しかし。
目を瞑って暗闇の世界に入ると今度は先程以上に聴覚や触覚が研ぎ澄まされて、
彼女の息遣いや自分の左側に感じる温かくて柔らかい感触が、彼の心拍数を余計に速くしていく。
(我慢しろ、今は我慢するんだ俺――――――――――…!!)
必死に理性を奮い立たせて、ブラック・ジャックはどうにか込み上がってくる感情を抑えようとする。
可愛い
温かい
柔らかい
眠っているはずのが、彼を誘惑する。
勿論彼女はそんな事には気がついていない。
ただ彼に寄り添って、穏やかに浅い眠りについているだけなのだから。
(……)
押し寄せていた欲望の波がようやく引いていくのを感じると、ブラック・ジャックは
きつく閉じていた瞼を薄っすらと上げ、片目でちらりとを見やった。
表情は先程と変わらず、穏やかに彼女は眠っている。
(…)
“男は狼”とは、誰が言ったものだろうか。
――――――――…気が付けば、彼は吸い寄せられるようにの唇に口付けていた。
(良いかな…)
唇を触れるだけのキスをすると、彼はもう一度に口付ける。
ぴくん、とは反応するものの、起きる気配はない。
それを確認すると、ブラック・ジャックは力の入っていないの唇を割って、
自分の舌を差し入れて彼女の舌を絡め取った。
それからブラック・ジャックは十数秒間の唇を味わうと、名残惜しそうにそれを離した。
口付けから解放されたは、息が苦しかったのか呼吸が少し速くなっている。
(――――――――――…このまま、が目を覚まさなかったら…)
不埒な想像が、ブラック・ジャックの頭の中を駆け抜ける。
理性と本能が、ギリギリの攻防戦を彼の脳内で行っていた。
先程のキスで、本能のヴォルテージが上がる。
だがしかし、すぐに彼の理性が勢いを取り戻すのだった。
(ッ…駄目だ、何を考えてるんだ俺はっ!)
警告アラームが頭の中で鳴り響き、ブラック・ジャックは
彼女のパジャマのボタンに伸ばしかけていた右手を、すぐに戻した。
それから少しの罪悪感を感じながらに視線をやり、まだ眠っているのを確認する。
(起きている時ならまだしも、眠っている時に襲うのは、さすがに…)
眠ったままの女性を襲うのは、本意ではない。
いや、それよりもそんな事をしてに嫌われるのが嫌なのだ。
彼女の性格からして嫌われる事まではないかもしれないが、
それでもこんな一時の衝動で彼女との間にわだかまりができるのは嫌だった。
(…)
(……)
(………寝よう)
の寝顔を見つめながら彼は頭の中で葛藤し、ようやく眠る事だけに集中する事にした。
の方に傾いていた右半身をベッドの真上に戻し、頭も枕に置いた。
視線の先には古びた天井が見える。
の寝顔と比べると、なんとも味気ない。
「んぅ…せ…せ…」
「!」
こうなったら早く眠りにつこうと閉じたブラック・ジャックの瞼が、
隣から聞こえてきた小さな声によって一瞬で開かれた。
もしかして、起きてしまったのだろうか?
そんな不安とも期待ともつかないような感情が、彼の頭をよぎる。
「…なんだ、寝言か…」
枕に頭を置いたまま、左に頭を傾けて見たの瞳は閉じられていた。
幸せな夢でも見ているのだろうか…口の端が、小さく上げられている。
そんな彼女を見て、ブラック・ジャックは今度は安堵と残念な気持ちが入り混じったような笑みを浮かべた。
「…せんせぇ…だいすき、だよ…」
(―――――――――…)
「…っ!?」
その言葉に、ブラック・ジャックは思わず目を見開いて頬を赤く染めた。
の何気ない、それこそ無意識の寝言に…彼は、翻弄される。
(―――――――今はまだ、このままでいいんだ…)
そう頭の中で考えると、ブラック・ジャックはフッと笑みを浮かべた。
何かが吹っ切れたような、穏やかな笑みだった。
「おやすみ、――――――――…愛してるよ」
そう言っての額にそっと口付けると、ブラック・ジャックは今度こそ眠りについた。
きっと彼の苦悩や葛藤は、これからも夜が来る度に続くのだろう。
それでも彼は、この腕の中のお姫様の幸せな眠りを妨げない為にも
それを乗り越え、また幸せな朝を迎える。
最近何よりも幸せなのは、「おはよう、先生」――――――――――――――…
目が覚めるとそう言って、笑ってくれるがいる事だから。
fin.
大好きなみかちゃんに捧ぐ、BJ甘夢でしたっ!先生ヘタレてるよ…orz
ごめんね、駄目駄目だ…!!orz
個人的には女の子は「大好き」、男の人は「愛してる」って言うほうが萌ゆる。(ドウデモイインダヨ!)
ほんと、いつもお世話になってて有難うですみかちゃん!
ここここんなので宜しければ、貰ってやってください…!(爆)
そしてこれからもよろしくお願いしますです☆;"。.+:*
05.10.17 Mia