「お帰りなさいませ、ご主人様っ♪」










Trick or Kiss










「なっ、っ!?お前なんて格好…」

「えへへ、似合う?」

「似合うとかそう言う問題じゃなくて!!」





今日も絶対不可能と言われたオペを終え、帰宅したブラック・ジャック。

そんな彼を出迎えたのは、愛しい恋人の

白いブラウスに黒のミニのワンピース、その上にはフリフリのレースのついたエプロン。

スリッパを履いているものの、靴下は黒のニーソックス。

頭にはフリルのついたカチューシャ。

そう、それはまごうことなきメイド服。

ミニスカートとニーソックスの間の生足が眩しい。

(それを彼が絶対領域と呼ばれている事を知っているかはわからないが)





「…似合わない?」

「いや、似合わない訳じゃないが…」

「やったぁ〜!!」





自分が言いたいのはそう言う事ではないのだが、の嬉しそうに

喜ぶ顔を見ると何も言えなくなってしまう。

そんなこんなですっかりのペースに乗せられて

本物のメイドと主人のようにコートと鞄を持たれ、ソファまで案内されたのだった。





「はい、パンプキンパイと紅茶でございますご主人様」

「…、いい加減喋り方を戻してくれないかい」

「えー?この方が雰囲気出ると思ったのに」





銀の盆に載せて運んできたティーセットを前に、ブラック・ジャックはため息を一つ。

「ご主人様」と呼ばれて敬語でかしづかれるのも確かに悪い気はしないが、

どうしてこんな事をしているのか理由を聞かないと何だか居心地が悪い。

そんなブラック・ジャックには残念そうな顔を見せたが、

すぐにこの“仮装”の理由を教えてくれた。





「明日はハロウィンでしょ?

 放課後皆でハロウィンパーティーする事になってて、

 私の仮装はメイドさんにしたの。それで衣装が届いたから、試着してみたって訳」

「…成る程(だからなんでメイドなんだ…)」





ハロウィンの仮装と言えば、魔女や悪魔が定番だろう。

それなのに目の前の彼女はこの姿。

見えるか見えないかギリギリのミニスカートが眩しい。





「ねぇ先生、喜んでくれた?」

「なっ、喜ぶ?」

「男の人ってこういうの好きなんでしょ?えーと、コスプレ?」





ソファの下で膝立ちになり自分の膝に手を置いて上目遣いで見上げてくるに、

思わず心臓が高鳴るブラック・ジャック。

そういう類の趣味はないが、嫌いかと言われるとそうでもない。

実際このフリフリの格好は小柄なをより可愛らしく演出しているし、

「ご主人様」と言う言葉は彼の征服欲を刺激した。

結局の所、の狙いは大当たりだったと言うわけだ。





「ね、嬉しくなかった?」

「…嬉しくなくはないが、俺以外の誰かの前でこれを着るのはいい気はしないな」





この可愛らしい衣装を身に纏って自分以外の者(特に男)の前に出ると

考えるだけで腹が立つ。

「おいで」の仕草をして、さりげなくを自分の膝に座らせながら

ブラック・ジャックはそう言った。

するとはくすくす笑いながら彼の首に腕を回す。





「ね、それってやきもち?」

「それ以外に何が?」

「嬉しいっ」

「おいおい、本物のメイドはそんな事しないぜ?」

「いいの、私は先生専用だから」





えへ、と聞こえてきそうなくらいの笑顔を浮かべ、

はそのままブラック・ジャックに抱きついた。

それを言葉では窘めつつも、彼もまた嬉しそうにの背中に手を回す。

ぎゅ、と一度抱きしめ合った後、はブラック・ジャックの目を見て

ある台詞を口にした。





「Trick or Kiss!」





その言葉に、ブラック・ジャックは少し面食らった表情を浮かべて

を見た。





「Trick or treat、じゃないのか?」

「ううん、Trick or kissでいいの」





“お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ”

それを意味するハロウィンの合言葉は、“Trick or treat”。

しかしが口にしたのは“Trick or kiss”…

“キスしてくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ”

目の前の可憐な少女がお菓子の代わりに欲したのは、キスだった。





「だって先生からもらうなら、お菓子よりキスの方が嬉しいもん」

「…そうか」





照れ笑いを浮かべるに、ブラック・ジャックはふっと微笑んでから

彼女に望みのものを与えた。

どんなに甘い砂糖菓子もかなわない、甘い甘いくちづけを。





「ん…」

「これで俺は悪戯されなくて済むのかな?」





もっともからの悪戯なら大歓迎だが…そう思いながらも、

唇が離れた後、軽く息が上がっているに笑顔を浮かべながらそう訊いた。





「…うん、私からはなしだね」

「じゃあ一安心だ」





本当に悪戯の心配なんかしてなかったはずなのに、

いかにも安心した、という口ぶりでそう言ったブラック・ジャックに、

はおかしそうに笑った。

そしてそんなを見て、ブラック・ジャックもまたおかしそうに笑う。





「心配なんてしてなかったくせに」

「そんな事ないさ。に悪戯なんかされたら、どうなるかわかったもんじゃない」

「ひどっ!」

「ところで、さっき君は“俺専用のメイド”だと言ったね?」

「え…言ったけど、なに?」





きょとんとして聞き返すの耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。





「それで?俺だけのメイドさんは何を奉仕してくれるのかな?」





その言葉に、キスの応酬が意外に高かったことに気がついて青ざめるだった。





…ハロウィンの夜空に響くの声。

それは、年に一度の宴を楽しむゴースト達の最高の御馳走になったのかもしれない。










fin.

2日遅れのハロウィン。間に合わなかったーーー!泣

藤原はこないだ皆でハロウィンしました。

お菓子ねだれるとか、ハロウィン好き過ぎる!笑

あ、例によって藤原さんは英語に強くない仕様となっておりますので(…)

trick or kiss→キスしてくれなきゃ悪戯しちゃうぞ☆

なんて言葉正しいかわかんないデース(死ねぇえ)


06.11.02*Mia Fujiwara