ねぇ歳 あの時の言葉、

まだ覚えてますか?






【【梅花】】






「俺ぁ京へ行くぜ」



年が明けて間もなく、歳が私をとうかん森の鳥居の所へ連れだし、そう言った。

雪が降り積もった小さな森。

私がまだ小さかった頃から、よく連れてきて一緒に遊んでくれた思い出の森。

大人になってからも、歳が私に大事な話をするのはいつもここだった。

だから今日もこの森へ誘われた時、楽しみな反面少し怖くもあった。

道の途中、『寒いから』と繋いだ手に、いつもより少し力が込められていたのにも、気付かない振りをした。



「な・・・歳?」

「浪士組の話はもう聞いてんだろ?俺は勝つぁん達と一緒に浪士組に加わって京へ行く」



突然の言葉。

当然私はその言葉に戸惑いを隠し切れなかった。



「や・・・やだっ、歳、何言って・・・」

「なぁ――――」

「ッ、やだやだやだやだっ!!馬鹿言わないでよ!遠くへ行っちゃうなんて言わないでよ!!私、絶対やだからね・・・っ」



『やだ』しか言葉が見つからなくて、私は子供みたいにその場で泣き叫んだ。

泣き叫んだ私の声は、すぐに白い雪に飲み込まれ、嘘みたいにしんとなる。

頬の上を溢れ落ちる暖かい涙は、すぐに冷たい空気にとりつかれ、体温をなくす。



「歳が・・・遠くに行っちゃうなんて・・・っ」



小さい頃からずっと一緒にいてくれた歳が離れていく。

遠い遠い、京へ行く。

考えもしなかった、突然の宣告。



、聞けよ」

「・・・?」

「俺ぁ京で一番偉くなって帰って来る」

「天皇様より?」

「・・・それは無理だけどよ。でもよ、俺の名前を知らねぇ奴なんざ誰もいねぇくれぇに、俺は登りつめてくるぜ」

「・・・」

「それで、誰より偉くなったら俺ぁお前を迎えに此処へ戻ってくる。文句ねぇだろ?」

「・・・いつ」



歳が聞かせてくれた『夢』

その時の私には大きすぎて、遠すぎて

私だけ、此処に取り残されていくような感覚を覚えた。



「・・・わからねぇ」

「なッ、駄目じゃん!!」

「けど、俺は約束は守るぜ?」

「・・・」

「・・・なぁ、泣くなよ」



うつ向いて必死に涙を堪える私の肩に手を置き、歳が困ったように声をかける。



「ッ・・・、泣いてなんか――――」

「お前ぇは昔からすぐ泣くし、その癖強がりだからいつまでも放っとけねぇんだよ」



気付けば私は歳の腕の中にいて、その体温に包まれていた。



「歳は・・・すぐそうやって人を子供扱い、して・・・っく、ッ――――」



歳にしがみついて、私は泣いていた。

せめて今だけでも、誰より近くにいられるように

目の前から、消えていってしまわないように

きつく着物を掴んで、顔を歳の胸に押し付けて大声で泣いた。



「・・・バーカ」



そう言いながらも、歳はただ声をあげて泣く私の頭を撫で、もっと強く抱き締めた。

温かい、心地よい体温。

どうしようもない不安を、その体温だけが私を落ち着かせた。






「じゃあ、行ってくるからよ」

「・・・行って、らっしゃい」



それから少し経ち、歳が出発する日はあっと言う間にやって来た。

旅支度をした歳は、他の仲間達と一緒に村の外れで最後のお別れをしていた。

雪はもうほとんど溶けて、梅の木は花をつけている。



「約束破ったら、針千本だからね」

「わかってらァ」

「悪い女に引っ掛かっちゃ駄目だからね」

「当たり前ぇだ」

「体、気を付けてね」

「お前ぇもな」

「・・・っ、」





歳を見送る日は、絶対に泣かないって決めたのに。

私の両目からは涙が溢れてとまらない。

また、歳に心配かけちゃうのに

こんなんじゃいけないって、

どうしようもないって、

わかってるのに

でも、止まらなかった。



「っ、ごめ、私泣かないって決めたのにね―――ッ」

「馬鹿野郎、お前ぇは最後の最後まで心配させやがる」

「・・・」



涙で濡れた私の頬を、歳が指で拭った。



「・・・歳の、小さい頃からの夢だもん」

「・・・」

「武士になるって、言ってたもん」

「・・・

「だから、」

「?」

「ちゃんと叶えるまで、ぜーったい帰ってきちゃ駄目だからね!!早く行け、馬鹿歳ーっ!!」



やっと言えた言葉は、可愛くなかったかもしれない。

涙でぐしゃぐしゃの顔じゃ、説得力はなかったかもしれない。

・・・だけど、歳には気持よく、前だけを見て歩いてほしかったから

私に出来る、精一杯。

泣き虫でも、強がりでも、これだけは本心だから。



「・・・ククッ」

「・・・歳?」

「言われなくてもさっさと行ってやらぁ。ほらお前ぇら、行こうぜ!」



口の端を吊り上げて笑うと、歳は奥にいた一行に声をかけて私に背を向けて、歩き出した。



「じゃぁな」

「・・・頑張ってね。」

「おう」

「・・・帰って、きてね」

「あ?聞こえねぇよ」

「何でもない!」

「・・・必ず、迎えに来るからよ」



遠ざかっていく背中は、いつのまにあんなに手の届かない存在になったんだろう。

その背中が小さくなるにつれて、また目が熱くなった。

私は、ちゃんと見送れたのかな。

あの人の負担に、ならなかったかな。






あれから数年が経ち、また同じ季節が廻って来た。

相変わらず私は泣き虫で、強がりばかり言っていて。

あれからあなたは京で活躍し、蝦夷地へ渡ったと風の便りに聞きました。

勿論夢を成し遂げたのも、知っています。

進歩のない私を見たら、笑われてしまいそうだけど。

それでも毎年同じ季節に此処へ来て、あなたの最後の言葉を思い出します。



「歳、梅の花が好きだったよね」



上を見上げると、あの日も咲いていた梅の花が枝を紅く飾り付けていて。

色も香りも、あの日のまま。

時の流れを感じさせるのは、少し背の伸びた木の高さだけ。



「・・・元気で、やってるといいな」






人はいさ 心も知らず ふるさとは

花ぞ昔の 香ににほひける



あなたの心はわからないけど

私は此処で、待ってるから

あの日と同じこの場所で

変わらない梅の花と一緒に。
















終われェエエ!!

------------------------------------------------
突然ですがコレ、古典の夏休み課題なんです。(爆)

万葉集かなんかの和歌を使って、1000字以上で小説を書いてくる・・・だったかな。

軽く5000字超えたんですけど(死)。

なんかお題みたいだよね(笑)。

ちなみにこれは紀貫之さんの句だったかしら・・・。

結構またいい句があるんですよ!!あなどれません。

ネタにつまったら今度またやってみようかしら・・・爆。

でもこの課題を言い渡されたとき、一瞬よっしゃと思いましたね(笑)。

小説なら得意(?)分野だし、何より内容の指定がされていなかったので。

ちょこーーーっと夢風味に仕立てれば、サイトにもアップできるじゃないか!という

最低な魂胆です。(逝けや)

見る人が見るとすぐにバレますな。ハハ!(ヤケ!)

一応提出するしちょっと頑張ったけど・・・結局駄目駄目☆;"。.+:*殴

大河とかも最初全然見てなかったので実際どんな状況で京に行ったか知らないので・・・

季節とかきっとズレまくってると思いますが・・・。

学の無いアホな奴と笑ってくださってかまいませんので・・・(脱兎)。。

っていうか体温ネタ好きだなぁ自分・・・つまるねん毎回。死。。。。。

しかも素敵なことに背景は梅ではなく桜です。深夜三時、梅の木の背景を探す余力はもう私には・・・。


弐千四年八月壱拾九日 Mia拝。

------------------------------------------------