B e a u t i f u l d r e a m e r
三月。
桜の季節、別れの季節。
三年間過ごしたこの校舎とも
今日でお別れ。
楽しいこと、悲しいこと、いろいろあった
さよなら、さよなら。
また逢う日まで。
わたしの胸の中に、思い出だけ、きらり。
「〜、リボン曲がってないっ!?」
「大丈夫大丈夫。私は〜?」
「ん、オッケーだよ」
早いもので、今日は私の卒業式。
入学して、施設を出て一人暮らしをして。
それから今年は、先生の家でお世話になった。
そして恋に落ちた。
いつの間にかあの人は、私の心の中でとても大きな存在になっていて。
家へ帰るのが、そして「ただいま」と言うことが、
とても嬉しく感じた。
泣いたり、笑ったり、嫉妬したり。
数え切れないことが、この一年の間に過ぎていった。
先生、そしてピノコと暮らした一年間が、私の三年間で一番輝いていた。
「緊張するね〜・・・泣いたらどうしよう」
「あはは、ってば」
「こそ泣いたりして?」
「私は泣かないよ」
「え〜、卒業式なのに〜!?」
体育館の前で整列しながら、友達が私に話しかけた。
何度も何度もリボンの角度を調節して、入場を待つ。
「泣いたらどうしよう」
友達のその一言に、ドキっとする。
確かに卒業は淋しいけど、別にこれが永遠の別れってわけでもないし。
こんなみんなの前で、私が泣くわけないじゃない。
でも、今日の保護者席には。
・・・先生がいる。
「来なくって良いから!!恥ずかしいし!!」って何回も言ったのに。
「本間先生に自分の代わりにの卒業式に出てくれ、と言われたんだ」って。
ピノコまで来る気満々で「明日何着ていこう〜♪」なんて部屋に向かって服選びを始めて。
結局、朝は三人で校門をくぐった。
「おーいお前達、そろそろ入場だから静かにしろー」
「・・・ま、が泣いたら私がハンカチ取り出して貸してあげるから」
「美しき友情、みたいな?」
「演出してどうするのよ」
友達とのおしゃべりを一旦やめて、前を向いた。
体育館ではもう吹奏楽部の演奏が始まっていて、同じクラスの先頭が入場していった。
入場しながら、ピノコが手を振っているのが見えた。
私もチラッと目線をやり、軽く振り返す。
先生は「前を向いていなさい」って顔してたけど。
それが少し可笑しくて、ちょっとだけ笑いながら席に着いた。
* * *
『以上、A組代表、』
「はい」
先生に名前を呼ばれ、立ち上がってステージに向かう。
一段、また一段と階段を上り、一礼。
校長が卒業証書を読み上げて、私はそれを受け取った。
自分の証書と、クラス全員分の証書を右手に抱えてステージを降りる。
ステージの上からは、クラス皆の顔と・・・一番奥に、先生の姿が見えた。
一瞬だけ、目が合った。
私が一瞬先生の目を見たまま固まると、先生は優しく微笑んだ。
だから私も先生まで見えるように思いっきり微笑んで、段を降りた。
先生に、届いてたらいいな。
私の気持ち、全部つめ込んだ笑顔が。
ありがとう、と、だいすき。
それだけあなたに、伝わってほしいから。
『式歌斉唱・・・蛍の光』
「っう、〜・・・」
「泣かないで、ほら・・・」
「だって、だってっ・・・うわぁああん・・・」
伴奏が流れているのに、私の周りから聞こえてくるのはみんなの泣き声だけだった。
の背中を擦りながら周囲を見渡してみると、みんな泣いていた。
女子も、男子さえも。
誰もが周りを気にせずに、ただ涙を流していた。
きっと、世界で一番きれいな涙なんだろうな。
そんな様子が、かえって私に“もう、終わってしまうんだ”ってことを実感させた。
高校生活が、終わる。
約束の一年が、終わる
私の一番大切だった日々が、今日で・・・終わって、しまう。
「っ・・・」
「ひっく、っ―――――――――・・・・・・!?」
「っく、ふぇ・・・」
「・・・、泣かないってゆったじゃ・・・っ、泣かないで、よぉっ・・・」
「うわぁああん・・・終わっ、ちゃうっ――――――――」
「私だって悲しいよ、みんなお別れ悲しいんだからっ・・・」
「っ、ひっく・・・」
違う 違うの
終わっちゃうのは、私の恋かもしれないの
最初から、今年一年の約束だった
先生の家で暮らして良かった権利が、今日でなくなっちゃうんだよ・・・?
そう頭によぎると、私の目から涙が溢れた。
泣くつもりなんか、なかったのに。
先生と離れたくない――――――――それだけが、私の頭の中をぐるぐる回っていた。
「も・・・終わっちゃうの・・・?離れちゃうの・・・?」
おはようも、行ってきますも、ただいまも、おやすみなさいも
全部全部、私の一部だった。
大好きなあなたの傍で、毎日を過ごせていたのに。
我侭だって、わかってても このままずっと、傍にいたくて。
『どうも、こんにちは』
そう初めて話した一言が、今ではとても昔のことのように思えた。
いっそ、あの時に戻りたい。
また一年を、あなたと一緒に過ごしたくて仕方がなかった。
止め処なく溢れる、私の涙。
私の居場所は、また違う場所に変わってしまうのかな・・・?
ずっとずっと、其処にいたいのに。
私の居場所なんて、もう何処にもないのに。
「ふっく・・・、ふぇえん・・・」
「っ、っうー・・・」
ありがとう、それだけ。
また笑顔で言えたら、上出来だね。
* * *
「ただいま」
「お帰り、楽しかったかい?」
「ん・・・まぁまぁ。あれ、ピノコは?」
「もう寝たよ」
「そ・・・か」
夜9時、卒業式の後に行われた祝賀会を終えて、私はようやく帰宅した。
リビングのドアを開けると、ソファに座って本を読んでいる先生の姿。
照明がひとつだけ落とされていて、いつもより少し暗い部屋。
私の姿を見ると、先生は読んでいた本を閉じて、テーブルの上に置いた。
「・・・終わっちゃった」
「泣いていたね、随分と」
「・・・」
「良いじゃないか、恥ずかしがることでもないだろう」
「・・・違う、の」
確かに私は、泣いていたけど。
卒業が悲しくって、泣いていたわけじゃないの。
祝賀会でひとしきり騒いで、一旦は忘れていたつもりでいた“悲しさ”のわけが、
先生の前に座って・・・また、溢れてきてしまった。
駄目だよ・・・このままじゃ、また泣いてしまう。
子供っぽいままの私を見られちゃうよ。
でも、言わなきゃ。
一年間ありがとうございました、って、笑って言わなきゃ。
「・・・先生・・・」
「ん?」
「私・・・っ・・・!」
また、洪水みたいに溢れてくる涙。
もう使うことのない、落書きだらけのスクールバッグを床に放り投げたまま、
先生の前で泣き出してしまった。
こんなはずじゃ、なかったのに。
どうしてだろう、やっぱり上手くいかない。
最後まで、かっこ悪いままだ。
「どうしたんだ・・・大丈夫、友達にはまた会えるさ」
「っ、ちがっ・・・違うの先生ぇ、私―――――――」
優しく抱き寄せてくれる先生に、また涙の量が増えた。
先生の腕の中で、とどまることを知らない涙が流れ、嗚咽を堪えた。
「っ・・・一年が、終わっちゃったのっ・・・!」
「え―――――――」
「私がっ・・・この家で、暮らす一年が・・・終わっちゃったよぉっ・・・!」
「・・・・・・」
先生はきっと、困った顔をしているんだろうな。
こんなに泣いて言ったら、出て行きたくない、なんて我侭をいってるのと同じだね。
ごめんなさい、先生。
私は最後の最後まで、あなたを困らせてばかりだね。
「・・・ほんと、は、ありがとうって、笑って言いたかったのにっ―――――――」
「・・・」
「言えないよ・・・私、っ――――――――ずっと、先生と一緒にいたいもん・・・っ」
「・・・」
「やだぁ、っ・・・大人になんか、なりたくない・・・ずっとずっと、此処にいたかったっ・・・!」
「・・・」
隠しておくつもりだった本音が、出てしまった。
私のバカ―――――――――そう思っても、もう遅い。
先生は何も言わず、私を抱きしめたままだった。
その手に触れて、ついに離れる日が・・・怖い。
カレンダーの日付が、今日で止まれば良いのに・・・そう思った。
「どうして、そんな事を言うんだい?」
「っ・・・」
先生は私の肩を掴み、一旦体から離した。
――――――――――来た。
オワリを 告げられるときが。
私は怖くて、ぎゅっと目を瞑る。
そして、先生の言葉を待った。
「いたかった、じゃなくて、これからも一緒に、いるんだろう?」
「っ・・・!?」
先生の言葉の意味を理解するのに、私はしばらく時間がかかった。
これからも、一緒に・・・いる・・・?
その言葉の意味は、私が予想して怖れていたものとはまったく別のものだった。
「先生、今なんて―――――――――」
「・・・顔を上げて?」
「・・・ふ、あ――――――――――」
言われたとおり顔を上げると、優しいキスが降ってきた。
甘く、時間をかけたキス。
蕩けそうな頭で、これが別れの口づけではないことが、はっきりとわかった。
「約束の一年が過ぎたからって、何故がここを出て行かなければならないんだ?」
「だってそれは、本間のおじさまとの・・・」
「バカだな、は・・・おまえさんを、俺が離すわけないじゃないか」
「っ・・・」
「一年が過ぎて、卒業したって・・・ずっとここに、いればいい。
・・・いや、違うな。いてくれなければ、俺が困る――――――
のいない生活なんて、考えられないんだ」
「先生ぇっ・・・!」
私は自分でも気付かないうちに先生に抱きついていた。
暖かい、大好きな体温。
・・・私の、居場所。
まだ上手く働かない頭で、必死に事態を整理しようとした。
私はずっと、ここにいて良いってこと。
先生が、私を必要としてくれているってこと。
それだけで、私の胸の中はいっぱいいっぱいだった。
「私、ここに、いていいの・・・?」
「当たり前じゃないか・・・、おまえさんの居場所はここなんだから」
「先生ぇ、大好き・・・っ」
「ああ・・・愛してる、」
もう一度、キス。
今度はさっきの柔らかいキスじゃなくて、大人のキスだった。
何度も角度を変え、舌を絡め合う。
だけどそれだけじゃ足りないほど、先生が愛しかった。
ありがとう、いっぱい迷惑をかけてごめんなさい。
そして、これからも・・・
これからも、ずっと、ここであなたと一緒に。
一緒に暮らせることに、感謝しています。
私、幸せだよ、世界で一番。
だからずっとずっと、これからも・・・世界で一番、あなたを愛し続けるからね。
fin.
祝自分卒業って事でー!(ヲィイ!!)
そろそろ春ですし、卒業夢を書いてみました。
二時間で書き上げました。原案は卒業式中ずっとボケーっと考えてました(逝ってよし☆;"。.+:*)
HOWEVERシリーズ、飛びすぎでごめんなさい。
まだまだ補完するべき場所もたくさんありますが、卒業夢です。
時系列的には一番最後のお話になるのかな?
そこんとこはまだよく考えていませんが・・・(考えろよ)
まぁ、ヒロインさんの卒業はこんな感じになりました。
先生ほとんど後半しか出てこない・・・orz
でも自分の中ではかなり糖度高くしたつもりです(爆)
結構書いててこっぱずかしい・・・「愛してる」とか言わせちゃったよ・・・!汗
そして泣いている描写が上手く書けません。(死んで来い)
ごめんなさいごめんなさいごめんなさ・・・!!!!!!!!!!(涙)
2005.02.02 Mia